大会レポート

文責:全日本空道連盟広報部・朝岡秀樹
写真:全日本空道連盟広報部 はいチーズ!フォト

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第4回アジア空道選手権大会 ダイジェスト

男子-230クラス

■1回戦

山田凌雅(青・大道塾仙台東支部)vsアブドゥル・ハナン・ビン・ザイナル・アビディン(シンガポール)。立位姿勢での裸絞めに「待て」が掛からない総合格闘技のルールであればそのまま一本を奪っていてもおかしくないほどの攻めをみせたアビディンと、タレントしてテレビ出演もしている山田のオープニングファイトは、蹴り技の冴えた山田が本戦旗判定5-0勝利。

■2回戦

ソンミン・ハン(青・韓国)vs山田凌雅。ハンがマウントパンチで効果1つを奪い、本戦旗判定5-0で勝利。

鈴木誠士(白・大道塾三沢支部)vs アビローブ・プラタップ・シン・ターク(インド)。首投げで投げられつつバックを奪った鈴木が裸絞めで一本勝ち。

田中脩斗(青・大道塾日進支部)vsチン・パン(中国)。投げからニーインベリーからのキメ突きで1つめ、パンチで2つめの効果を奪い、田中が本戦勝利。道着上衣が完全に脱げる珍しいシーンもあった。

大西凜駿(白・大道塾総本部)vsデンゼル・レオン(シンガポール)。パンチのクリーンヒット、タックル、腕十字と攻め立てた大西が本戦旗判定5-0で勝利。

■準決勝

鈴木誠士(白)vsソンミン・ハン。マウントパンチで効果1つを奪い、アキレス腱固めを極め掛けた鈴木が本戦旗判定5-0勝利。ハンも上段回し蹴りであわやという場面をつくった。

大西凜駿(白)vs田中脩斗。左上段回し蹴りで効果1つを得た大西が本戦旗判定5-0勝利。

■決勝戦

鈴木誠士vs大西凜駿(白)。2ポイント(効果2つ)以上のポイントの獲得がないかぎり、自動的に延長戦を行うことが全日本選手権や国際大会の決勝戦における決まりであり、それゆえに大半の決勝は本戦3分+延長3分のラウンド制に近い試合構成になるのだが、本戦で大西が上段膝蹴りで1つめ、マウントパンチで2つめの効果を奪い、あっさりと優勝を決めた。鈴木も片足タックルに入ろうと両膝をマットに着いた大西に対し、頭を押さえてキメ突きを放つなど、効果を得てもおかしくないシーンもつくってみせたが、及ばず。鈴木、山田、田中ら綺麗な組手で海外勢を制した20~22歳の新人たちの台頭は喜ばしいが、大西との間にはまだ力の差があるものと感じた。同時に、その大西を半年前の2025全日本体力別で完封した目黒雄太(大道塾長岡支部)の技術の高さをあらためて思う。

男子-240クラス

■2回戦

曽山遼太(青・大道塾岸和田支部)vsプラティーク・シン(インド)。パンチ、首相撲からの膝蹴りで攻めた曽山が本戦旗判定5-0で勝利したが、シンも上段回し蹴りや、スイッチミドルをヒットさせるなど、技術力の高さをみせた。競技者人口の多いインドの急速なレベル向上を、末恐ろしく感じる。

佐々木虎徹(白・大道塾長岡支部)vsミンソク・キム(韓国)。ニーインベリーからのキメ打撃で効果、膝蹴りで有効を奪った佐々木が本戦勝利。

伊東宗志(青・大道塾長岡支部)vsペメシュワル・カウシク(インド)。襟絞めで伊東が一本勝ち。寝技で膠着しているだけかにみえて、ブラインドで絞めを極めていたわけだが、3名のオフィシャル・フォトグラファーのうち誰一人、シャッターを切っておらず、相手がタップして、初めてそのことに気づく……これこそ名人芸(言い訳)。掲載写真は相手がタップして慌ててシャッターを切った一枚。

バヌシュ・チャホヤン(白・ロシア)vs佐々木惣一朗(大道塾仙台東支部)。効果以上のポイントこそ奪わなかったものの、ヒザ、バックマウントからのパンチ、反り投げ、ロシアンフック、跳び後ろ蹴り……と猛攻で攻め立て、2025ロシア王者の19歳が、U19全日本連覇の実績者に本戦旗判定5-0で圧勝。「日本人とはかけ離れた組み力の強さにびっくりした」と佐々木は振り返った。

■準決勝

曽山遼太(青)vs 佐々木虎徹。本戦は曽山に旗2本、佐々木に旗1本が挙がり、主審・副主審は引き分けを支持。延長で佐々木がマウントパンチにより効果1つを奪い、逆転勝利を収めた。

バヌシュ・チャホヤン(白)vs伊東宗志。ムエタイスタイルで蹴りで距離を取るタイプ、組んでのMMA的展開で相手を消耗させるタイプ……と様々なスタイルをもつ日本人トップファイターのなかで、伊東は中間距離でのパンチの打ち合いを好むタイプであり、パンチの強いロシア人たちと対するには適していないようにも思われたが、パンチ合戦では打ち勝っている場面すらみせた。両者ポイントなく、本戦、副審の旗は伊東に1本、チャホヤンに2本と割れ、副主審・主審はチャホヤンの勝利を支持。テイクダウン率が勝敗を分けたか? ロシア人選手と初めて対戦した伊東は「ロシアはめちゃ強いというイメージだったけど、思ったほどではなく、距離を取る日本人との対戦より手が合うというか、楽しく感じました。馬力みたいなものは凄く感じましたが、10回やって10回負ける相手じゃないと思うので、次の機会(世界選手権での対戦)があれば勝てるように、そこまで目指せるように頑張ります」と頼もしいコメントを残した。

■決勝戦

佐々木虎徹(青)vsバヌシュ・チャホヤン。本戦は両者ポイントなく、自動延長へ。サウスポーの佐々木は左ミドルをクリーンヒットするが、チャホヤンは外掛けで倒し、ニーインベリーからのキメ打撃で1ポイントを奪う。佐々木は立ち上がろうとするが、続いて襲うチャホヤンの絞め技(上四方方向から、腕一本を巻き込んで、巻き込んだ腕の側で両腕をクラッチして、三角絞め状に極める形状のもの。いわゆるアナコンダ・チョーク)に「参った」の意思表示。結果として、今大会、チャホヤンの対戦相手は佐々木惣一朗、伊東、佐々木虎徹と、全員日本人。このクラス、日本人が4人出場したのに対し、ロシア人はチャホヤンのみ。それでもなお、まだ幼ささえ感じさせる顔立ちのこの19歳に優勝をさらわれたことは、次回世界選手権に向け、課題の多さを感じさせた。一方で、チャホヤンと向き合った3人の日本人のうち、唯一人、ポイントを奪われることなく、スプリット判定にまで持ち込んだのが、パンチの真っ向勝負で闘った伊東であったことに、ひと筋の光をみた思いもする。

男子-250クラス

■2回戦

佐藤裕太(白・大道塾横浜北支部)vsモハド・ソヘイル・カーン(インド)。本戦、マウントパンチで効果を奪った佐藤が旗判定5-0勝利

鈴木浩佑(白・小杉道場)vsジェヨン・チェ(韓国)。腰車(首投げ)から腕ひしぎ膝固めを極め掛けた本戦旗判定5-0で勝利したが、チェも、四つ這いの鈴木へのキメ打撃、腕ひしぎ裏固めなど、昨年の全日本王者を相手に、あわやという攻めをみせていた。

中村凌(青・大道塾日進支部)vsビジャイ・ディープ・ジャスワル(インド)。中村が袈裟固めからの腕ひしぎ膝固めで本戦一本勝ち。

■準決勝

鈴木浩佑(白)vs佐藤裕太。本戦は、副審の旗が鈴木に2本、佐藤に1本と割れ、副主審・主審は引き分けを支持。延長でパンチで効果を奪った鈴木が勝利。

中村凌vs中上悠大朗(白・大道塾総本部)。肩の脱臼による長期の戦線離脱を経て、1年前に全日本無差別王者となった中上は、半年前の全日本体力別準決勝で中村に完勝し、そのまま決勝も制しこの階級の全日本王者にもなっており、現在の空道におけるエース的存在にまで昇りつめていたが……。何が起こるか分からないのが勝負の世界。支え釣り込み足を掛けた中上に対し、中村が体重を浴びせると、肩から落下した中上は、再脱臼。それでも試合を続けた中上だが、続けて中村が袈裟固めから腕固めで攻めると、さすがに観念。リベンジを果たした中村は咆哮した

■決勝戦

中村凌vs鈴木浩佑(青)。昨年の全日本体力別におけるこのクラスの決勝の再戦となったこの試合、本戦では、「下半身をめちゃめちゃ強化してきた」という中村が内股で投げ、右ストレートをヒットし、優勢。リベンジを果たすかと思われたが、延長戦終盤に、首相撲で頭を下げさせた鈴木が、顔面への膝蹴りを連打。これで1ポイントをゲットし、旗判定5-0で返り討ちにした。

男子-260クラス

■1回戦

永見竜次郎(青・大道塾安城同好会)vsソンイル・パク(韓国)。パクの上段回し蹴りを凌ぎ、フック連打で効果を奪った永見が本戦旗判定5-0で勝利。

■2回戦

麦谷亮介(青・大道塾行徳支部)vsヘギュ・ジョン(韓国)。本戦前半、大外刈り→腕絡み(いわゆるアメリカーナ、V1アームロック)を極められかけた麦谷だが、終盤にワンツー(右ストレート)で効果を奪い、判定5-0で勝利。

稲葉竜児(白・大道塾仙台東支部)vsシタンシュ・シェス(インド)。相手の頭を足で跨いでプレッシャーを掛けての片手絞め(いわゆるカントチョーク)で稲葉が本戦一本勝ち。

水村健太郎(青・大道塾総本部)vsジャクソン・ジョシー(インド)。ギロチンチョークなど、侮れない攻めをみせるジョシ―に対し、上段回し蹴りとパンチで有効打を重ねた水村が本戦旗判定5-0で勝利。

永見竜次郎(青)vsオレグ・ゲンナジエヴィチ・イワノフ(ロシア)。脛の深い部分でのハイキック、伸びのあるストレートを浴び、三角絞めを極め掛けられ、劣勢の続いた永見が、パスガード→ニーインベリーからのキメ打撃で効果を奪取。イワノフの猛反撃を凌ぎ切り、本戦旗判定5-0で勝利。今年2025年全ロシア大会このクラス3位を撃破する大金星を挙げた。今大会の“裏MVP”と評したい。

■準決勝

麦谷亮介(青)vs稲葉竜児。離れて回し蹴り、近づけば首相撲からの膝蹴りが持ち味の麦谷と、投げから一発逆転の絞め・関節技を狙う稲葉。右上段回し蹴りで一つ、パンチ連打で2つの効果を奪った麦谷に対し、勝負を諦めない稲葉は強引な投げを打つ。これを手をついて防いだ麦谷が、旗判定なしの本戦勝利を得るが……。

水村健太郎(青)vs永見竜次郎。永見が伸びのある右ストレートで顎を捕えれば、水村は上段回し蹴りをヒット。全般的には、ボディワークで永見のパンチの多くを躱していた水村が主導権を握っている感があり、本戦旗判定で副審は旗は水村に2本、永見に1本。副主審・主審が水村の勝利を支持し、延長にはならず。

■決勝戦

麦谷亮介vs水村健太郎。稲葉戦で投げを喰らった際、右手をマットに着いてバランスを取った麦谷は、肘の屈曲伸展が出来ない状況となり、棄権。水村が不戦勝で優勝者となった。麦谷の決勝出場を阻んだのが稲葉であり、ロシアを止めた永見であることを考えると、トーナメントを制することの難しさをあらためて感じる。半年前、全日本体力別の関東地区予選では水村が勝利、全日本体力別本戦では麦谷が勝利し1勝1敗であっただけに、両者の決着戦の早期実現も楽しみにしたい。

男子―270クラス

■1回戦

ジュンヒョク・キム(青・韓国)vs石川貴浩(白・大道塾安城同好会)。肘打ち、頭突きと空道ならでは打ち合いのなかで、掌底フックの連打により効果を2つ奪ったキムが本戦勝利。

■準決勝

ルスラン・ジャファロフ(青・ロシア)vsジュンヒョク・キム。2025年全ロシア大会-270クラス準優勝のジャファロフは、試合開始早々、パンチの連打で1つめ、四つ這いのキムへのキメ打撃で2つめの効果を奪い、力の差をみせつけるが、キムはまったくたじろぐことなくパンチの打ち合いの真っ向勝負を挑み、左フックを浴びて轟沈。一本負けを喫したが、駆け引きナシの突貫ファイトと試合後の笑顔には、清々しさを感じた。

テミルラン・アイティモフ(白・カザフスタン)vs松岡陽太(大道塾大田支部)。柔道出身ながら、しっかりと後ろ拳のガードを上げたポスチャーを維持していた今年の全日本最重量級(体力別+260クラス)王者・松岡だが、それでも昨年2024年のユーラシアンカップー270クラスで準優勝し、MMAや柔術でも実績を残すアイティモフは右ストレートで効果を奪い、右上段回し蹴りで顔面を脅かす。松岡は、小外刈り(相撲組みからの切り返し)→パスガード→ニーインベリー→キメ打撃で効果を奪い返すも、右ストレートで再び効果を奪われ、本戦敗退。

■決勝

テミルラン・アイティモフ(白)vsルスラン・ジャファロフ。ロングレンジの右クロスをヒットさせたアイティモフだったが、打ち合うなかで後退を余儀なくされ、気後れ気味なタックルを仕掛けるも切られ、寝技の展開でも流れるようなパスガード→キメ突き→肩固めで完敗。全日本王者に旗判定なしで本戦勝利したアイティモフに完勝したジャファロフがあくまで「アジア地域のロシアの代表」であって、今年2025年の全ロシア選手権では優勝できていないというのだから、2年後の世界選手権の重量級で日本が真の世界一を勝ち名乗りを上げることの難しさをまざまざと見せつけられた感あり。

男子270+クラス

デユ・キム(青・韓国)vsフンレ・ロー(韓国)。巴戦が組まれていたが、1名(パキスタンの選手)棄権により、韓国人同士のワンマッチとなった270+クラスの一戦は、各クラスの決勝進出者紹介の前に行われた。99キロのキムが後ろ蹴りを決めれば、120キロのローが右ストレートを打ち抜く。同国人対決ながら、互いに手を緩めない激しい接近戦を繰り広げ、キムが本戦旗判定5-0で勝利。そもそも、頭部への直接打撃を行う競技のワンデーイベントにおいては、リスクヘッジの観点上、敗れた選手が2戦めを闘うことになるリーグ戦(巴戦や五角形戦含む)は行わないことが相応しいと思われるが、もし、行うのであれば、観戦を募るイベントであるかぎり、それぞれのカテゴリーの最終試合は、他のカテゴリーの決勝と同じ扱いにて試合順が組まれている(進行において後ろ揃えとなっている)べきと感じる。

女子-220クラス

■1回戦

アヌギャ・シャルマ(青・インド)vs西田美玖莉(大道塾日進支部)。昨年の全日本U19-215優勝者である西田を3度に渡り豪快に投げ、マウントを取ったシャルマが判定5-0で勝利。

仙石梨江(白・大道塾吉祥寺支部)vsオレシア・セルゲエヴナ・ブルダコワ(ロシア)。組んでの右アッパー、膝蹴りの乱れ打ちでブルダコワが本戦旗判定5-0で勝利。

大倉萌(白・大道塾吉祥寺支部)vsチェスタ・パテル(インド)。右フックで効果を奪った大倉が本戦旗判定5-0で勝利。

■準決勝

アヌギャ・シャルマvs小野寺玲奈(青・大道塾帯広支部)。本戦で小野寺がマウントパンチで効果を奪い、腕十字で一本勝ち。

オレシア・セルゲエヴナ・ブルダコワvs大倉萌(白)。ランニングしながらのパンチ連打で前に出るブルダコワと、距離を取っての上段の前蹴りから組んでの頭突きまで多彩な技を展開する大倉の闘いは、典型的な日露のスタイルの対決。本戦はブルダコワに2本、大倉に1本、副審の旗が挙がり、副主審・主審は引き分けを支持。延長で、大倉は得意の捨て身系の投げを仕掛けるも切り返されて上を取られ、終盤には、パンチの連打も浴びる。フィジカルで押し切るようなかたちで、ブルダコワが旗判定5-0で勝利した。「岩﨑(大河・大倉の夫であり、2023世界選手権270+クラス優勝者)と立てていた作戦は、序盤はハマっていたんですけど、相手には修正力があったな、と。パンチはやっぱり強くて頭を振らされてだんだん効いてきましたね。すべてのパンチが、日本の選手の『今のはいいクリーンヒットだった!』っていうようなパンチのように強かった」と振り返る大倉、半年前に今回で試合出場は一区切りにすることを決めて準備を積んできたとのこと。2018年世界選手権はケガにより出場を逃し、2023年世界選手権にはロシア選手が出場しなかったため、今回が初のロシア選手との対戦だった(ジュニア競技時代には対戦経験あり)わけで「半年間、飯村(健一・大道塾吉祥寺支部支部長)先生や岩﨑と考えてきたことをぶつけてみてダメだったんで、潔くやめられそうだなと思っています」と清々しい表情をみせた。

■決勝

オレシア・セルゲエヴナ・ブルダコワ(白)vs小野寺玲奈。小野寺は道着を掴んで相手を引き出しつつのハイキックなど、空道ならではの技術で闘うが、本戦・延長と、ブルダゴアはひたすら突進し間合いを潰し、技を決めさせない。だが、迎えた再延長で、小野寺は支え釣り込み足で相手を前方へ引き出してからの内股という連絡技で、ブルダゴアに力で凌ぐ間を与えず、一瞬のうちに投げ→キメ突きを行い、効果ポイントを得てそのままタイムアップを迎え、旗判定なしで勝利。2023世界選手権優勝以降、2024体力別&無差別2025体力別と全日本を連覇している小野寺だが、実は、その連勝の合い間に重い1敗を喫していた。2024年ユーラシア大会決勝アナスタシア・モシキナ戦での惜敗だ。ロシア不出場の世界選手権での優勝者としては、前回世界選手権優勝のロシア選手との直接対決において旗を得られなかったことは、その後、どんなに勝利を重ねても(この7月にはワールドカップでも優勝したが、この大会にロシアは不出場)、心に燻るものを残していたに違いない。試合後、バックステージでの小野寺は歩行が辛そうな様子で聞けば、大会前に大腿部挫傷を負った状態だったという。本人は「動きが悪くて納得のいく試合は出来ていない。ポイントに救われた」と振り返るが、仙石梨江・大倉萌をいかにもロシアンファイターらしい前のめりな突進で下してきたブルダコワのプレスに力負けすることなく、かつ、重心の移動を誘発し捉えるタイミング技で力に頼らずポイントを奪ったことは、ロシア対策を考えるチーム日本に、不落の城を攻め落とす道筋を示したであろう。2005年の世界選手権で女子の国際大会がスタートして以来、その決勝で日本人女子選手がロシア選手を下したことはなく(ワールドカップの決勝外で勝利したことはある)、今回の勝利は、20年を掛けての1勝目である。頭突き、掴み打撃ありの世界で、フィジカル差で圧倒され続けてきた日本女子に、小野寺は、新たな扉を開いた。

女子220+クラス

■準決勝

服部雅子(青・大道塾横浜北支部)vsギー・ドーク(インド)。2023年世界選手権で優勝した内藤雅子が、大会後、2018年世界選手権男子-240クラスクラス3位の服部晶洸と結婚し服部雅子となり、2024年10月に第1子(男児)を出産し、国際大会復帰を果たした。豪快な払い腰からのキメ打撃で効果を奪った内藤が本戦旗判定5-0で勝利。

小関沙樹(青・大道塾仙台東支部)vsプリヤ・クマリ・タパ(インド)。本戦でタパは払い腰からの腕十字を極め掛け、副審の旗は小関に1本、タパに2本挙がり、副主審・主審は引き分けを支持。延長でパンチ連打によりタパが効果を奪い、勝利を収めた。

■決勝

服部雅子(青)vsプリヤ・クマリ・タパ。初戦で柔道出身の小関に組み勝ったタパは、服部の内股をも潰し、上からパンチを浴びせてみせる。本戦は両者ポイントなし。迎えた延長、服部は左上段前蹴りをヒットさせ、足車からキメ打撃で効果を奪い、腕絡み(いわゆるアメリカーナ)でタップを奪った。厳しい角度で肘関節を極めたためか、思わず服部は手を合わせて詫びる。試合後の服部は、出産後1年での試合出場でのパフォーマンスが妊娠前の試合出場時と比べてどうであったかということに関して「やっぱりフィジカルが激落ちしてました。出産までの10カ月で落ちていたものを、取り戻せなかったです。仕事(柔道整復師)にも復帰したので、育児と仕事をしながら、1回の稽古は90分確保できればいい方で……自分の中では“ダメだったなぁ”という感じです」と反省しきり。いや、立派である。

全日本空道ジュニア選手権大会決勝ダイジェスト

■U19男子-240クラス 決勝戦

柴尾頼芽(青・大道塾小樽支部)が七久保蓮(大道塾総本部)からマウントパンチで効果を奪い、腕十字で一本勝ちし優勝。

■U19男子-250クラス リーグ戦

安藤光志(白・大道塾多賀城支部)が右ストレートをヒットさせれば、髙橋龍(大道塾小樽支部)は背負い投げを決める。旗判定4-1のスプリットで、高橋が優勝、安藤が準優勝となる。

雑感

アジア選手権各階級優勝者。左上から時計回りにキム、鈴木、水村、ジャファロフ、大西、服部、小野寺、チャホヤン。

アジア選手権各階級入賞者。国際大会において、日本、ロシア、ヨーロッパ、中央アジア、南米の選手ばかりが強く、アジア南西部の選手は“出場することに意義がある”的にみえた過去25年ちかくを振り返れば、インドの国旗を纏った選手がこういった写真に写るようになったことは、競技の国際的普及を示しているのだろう。一方で、彼らが上位進出できないほど、日本、韓国、中央アジアのトップ選手がフル出場していなかったからこそのインド勢の躍進だったようにも感じる。ヨーロッパ、アメリカをはじめたとした各大陸・地域の大会の開催実績をもつことで、スポーツアコード、IOC、IWGAといったスポーツ界の国際的な組織へのアピールを行うことが国際空道連盟の狙いなのだろうが、やる側に寄り添うことも重要だと考えるならば、ナショナル大会と世界選手権の間にある“アジア”の大会に出る……そこで勝つことの意義、プライズをいかに提示するかが、今後の競技連盟としての課題といえよう。一方で、今回、ロシア内アジア寄りの地域の代表選手の出場を認可した連盟の判断は、大会の見どころを維持できるうえに、ロシアの選手たちを疎外感から救うことができる、ウィンウィンの良策だったと評価することもできる。

開会式。場内に参加各国の国旗が掲げられるのがこれまでの国際大会における見慣れた情景だったが、今大会は、閉会式以外での「国・地域」のアピールは控えるという申し合わせのもと、開催された。これもまた、ロシアを巡る国際情勢に対応した、大会運営サイドの適性な判断であったと感じる。そして、早期に、再び、各選手が「国・地域」という自己の帰属を遠慮なくアピールできるくらい、世界が平和になることを望む。

-260クラス優勝の水村のセコンドを務めたのは、アメリカから日本へ旅行中のため総本部で稽古をしていたアントン・トーレス(今年7月5日~6にブルガリアで開催された第3回空道ワールドカップ男子-270クラスの優勝者)

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