大会展望

ロシアのウクライナ進攻により、2023年世界選手権においては、世界情勢や安全性の問題等に配慮した結果、ロシア人選手の出場が見送られ、その中で日本人選手が、8カテゴリー中、6つを制した。
しかし、世界選手権の優勝者は、2009年は全カテゴリーがロシア、2014年・2018年は1つは日本で残りはすべてロシアと、近年はロシアが圧倒的な強さを誇っていただけに、ロシア抜きの世界選手権で王座を独占したところで「日本が空道母国としての復権を果たした」とは声高に言えない感があった。
そんな経緯を経て、今回のアジア選手権、KIF(国際空道連盟)は、ロシアのうち、ウラル山脈より東側(シベリア~沿海州地区など)は、アジア圏とみなし、それらの地区より選出された代表選手の参加を認める判断を下した。
これまで、国際大会出場の目途が立たぬなかでの稽古を積むことは、ロシアのトップ選手たちにとってどれほど苦しいことだったろうか。
それを思えば、まずはロシアからやってきた選手たちを「お帰りなさい、試合の舞台へ」と祝福したくもなる。
一方で、日本代表選手たちには「ここで、全ロシアの代表でもない彼らを勝たせてしまったら、あの2023年の栄冠に対し『やっぱりあれはロシア抜きだったからの結果であって、本当の世界制覇とは言えない』といった風評が定着することは避けられまい」という見解は伝えておきたい。
2年後に迫る第7回世界選手権において、全ロシアの代表を迎え撃つ前のファーストステップとして、今大会、日本代表たちが〝アジア地域のロシアの代表〟選手たちを問題なく制することができるのか?
それどころか、インド、韓国、香港、シンガポール、カザフスタン、パキスタン……からやってくる選手たちのなかに潜んでいる思わぬ伏兵に喰われるような事態が生じるのか?
かつては日本の独壇場、実力差のある対戦が生む派手な〝一本〟の頻発がアジア選手権の見どころであったが、もはやそんな楽しみ方はできまい。
手に汗握って刮目せよ!
なお、今大会、会場内において、選手・関係者ともに政治的な行動・発言は行わないよう、各国選手団に通達されているが、閉会セレモニーにおいては国旗を掲げることなどが認められている。
ロシアの選手が頂点に立った場合には、気兼ねなく、いつかのように、国旗をはためかせてのウイニングランをするもよいだろう。
ただ、政治や社会状況とは関係なく、スポーツとして、武道として、日本がそれを阻むことを期待したい。

各階級展望

-270クラス

2025年全ロシア大会の準優勝者であるRuslan Dzhafarov(写真①)が本命であるが、カザフスタンのTemirlan Aitimovもワールドカップで優勝・準優勝歴をもち、MMAや柔術でも国際大会で好成績を収めているだけに、侮れない。柔道強豪校出身、総本部内弟子を経て、今年2025年260+クラスで全日本初制覇を果たした松岡陽太は国内においてはクラス内随一のパワーヒッターでもあるが、果たして旧ソ連系ファイターたちにも、その真っ向勝負が通じるか? 推薦により日本代表に滑り込んだ石川貴浩には、捨て石となる覚悟でソ連勢に食らいついて欲しいところ。 

-260クラス

2023年世界選手権-260クラス4位、2025年全日本体力別-260クラス優勝の麦谷亮介が日本の切り札といえるが、1年前、2024年の全日本無差別で麦谷から右の剛腕フックで効果を奪って勝利している永見竜次郎、9月のテストマッチ(関東地区交流大会)で、MMA(HEATウェルター級)元王者でありキックボクシングでも名王者にKO勝ちを収めている相手を下した水村健太郎、一発逆転の番狂わせを演じうる寝技の極めの強さをもつ稲葉竜児も、今年2025年ロシアカップ準優勝のOleg Ivanov(写真②)を止める可能性を秘めている。

-250クラス

本命は2024全日本無差別優勝、2025全日本-250クラス優勝の中上悠大朗(写真③)、2024全日本-250クラス優勝の鈴木浩祐(写真④)にも注目したい。空道の国際大会の日本代表選手となるのは、空道競技の練習を専門に行っている団体・大道塾の選手がほとんどだが、鈴木は「小杉道場」という団体の所属選手。競技普及に向け、パイオニアとしての活躍を期待したい。ボクシング技術と内股などの投げ技にキレをみせる2024全日本-250クラスファイナリスト・中村凌、U19で全日本優勝&世界準優勝歴を誇る佐藤裕太が、インドや韓国、パキスタンの選手たちをどう捌いていくのかも、楽しみだ。

-240クラス

今年2025年、悲願の全日本体力別-240クラス優勝を果たした曽山遼太と、22年全日本同カテゴリー優勝、24・25年同準優勝の伊東宗志の2大王者が、2025年の全ロシア王者であるVanush Chakhoyan(写真⑤)を迎え撃つ。Chakhoyanは171センチ、68.9キロの19歳・学生・初段。Jr全日本優勝経験のある佐々木惣一朗、昨年(2024年)末の全日本無差別でベスト8入りした佐々木虎徹が同世代のChakhoyanを退ければ、なお、頼もしい。

-230クラス

今年2025年の全日本-230クラスファイナリストである大西凜駿の対抗馬となるのは、同じく今年、ワールドカップ3位入賞を果たした韓国のHAN SEONG MIN(韓国)ぐらいか。目黒雄太、谷井翔太、佐々木龍希らこの階級の近年の実績者が、支部長就任やプロ競技出場、妻の出産などにより今大会をスキップしたことにより出場権の巡ってきた3人の新鋭、田中脩斗(21歳)、鈴木誠士(20歳)、山田凌雅(22歳)には、このチャンスを活かして名を挙げ、2026年以降の全日本獲りへの足掛かりとしてほしいところ。

女子220+クラス

2023年世界選手権で優勝した内藤雅子が、大会後、2018年世界選手権男子-240クラスクラス3位の服部晶洸と結婚し服部雅子となり、2024年11月に第1子(女児)を出産し、早くも国際大会復帰を果たす。優勝を果たせば、またひとつ、女子空道の新たな扉を開けることになる。結婚・出産後に競技成績をより向上させることが当たり前となって「ママ王者」といった呼び方が消滅する将来を導くためにも、ロールモデルとして輝き続けてほしいところだ。

女子―220クラス

2023世界選手権-220クラスで優勝を果たした小野寺玲奈(写真⑥)だが、1年前(2024年)のユーラシア・カップでは、前回世界選手権-220クラス優勝のアナスタシア・モキシナに決勝で敗れている。それだけに、今回、昨年の全ロシア選手権―220クラス優勝者であるBuldakova Olesia(写真⑦)を下して、ディフェンディング・ワールド・チャンピオンの称号が相応しいものであることを証明してほしいところ。一方で、2023世界選手権で決勝を小野寺と争った大倉萌は打撃から組み技まで、テクニックで相手を絡め獲るタイプだけに、ロシア人のラッシングパワーをも封じ込められるのかどうかが見ものだ。

※前回世界選手権では岩﨑大河が一本勝ちで決勝を制した男子最重量級270+クラス、今回のアジア選手権においては、出場に見合う日本人選手はいない、と全日本空道連盟は判断した。武道的な視点でいえば、最重量級クラスを制することに最大の価値を置く考え方もあるので、今後の国際大会においては、再び日本男児が270+クラスで奮闘する姿をみせてもらいたい。

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