大会レポート

文責:全日本空道連盟広報部・朝岡秀樹
写真:全日本空道連盟広報部 はいチーズ!フォト

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2024全日本空道無差別選手権大会 全試合ダイジェスト

■男子1回戦

藤澤純也(青・大道塾成田支部)vs杉本博文(大道塾御茶ノ水支部)。
頭を下げる杉本に膝をニアヒットさせた藤澤が本戦旗判定5-0勝利。

三鬼裕太(青・大道塾御茶ノ水支部)vs池田孝之(大道塾秋田支部)。
掴んでの左フックで効果を奪った三鬼が本戦旗判定5-0勝利。

家弓慎(青、誠真会館花小金井道場)vs曽山滉平(大道塾岸和田支部)。
家弓がマウントパンチで効果を取り、曽山がフックで効果を奪い返し、家弓がパンチ連打で再び効果を奪い返す。シーソーゲームの末、家弓が、本戦効果優勢勝ち。

宮沢琉伊(青・大道塾東京北支部)vs池田将貴(大道塾筑紫野支部)は、
宮沢が右ハイキックをヒットさせれば、池田も右ストレートを打ち抜く互角の展開。本戦旗判定で双方に旗が2本ずつ揚がり、主審が宮沢勝利を選んだ。

飯野晃司(青・大道塾御茶ノ水支部)vs中上悠大朗(大道塾総本部)。
マウントパンチで効果を奪った中上が、続けて送り襟絞めから片手絞め(いわゆるボーアンドアローチョーク)へ移行し、一本勝ち。

服部晶洸(青・大道塾横浜北支部)vs水流蒼太(大道塾筑紫野支部)。
19歳、キャリア12年にして白帯を締める水流が勢いのある攻めをみせるが、服部は淡々と対処し、寝技でのガードワークからいわゆるフックスイープを決め、マウント。パンチで効果を奪い、手堅く本戦旗判定5-0勝利。

小枝信介(青・大道塾御茶ノ水支部)vs稲葉竜児(大道塾仙台東支部)。
稲葉がマウントパンチを放った後、腕十字で一本勝ち。

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長沢新(白・大道塾岸和田支部)vs永見竜次郎(大道塾安城同好会)。
長沢が膝つきの背負い投げ→キメ打撃により効果を奪取し、その後も、ジャブと掌底で試合の流れをコントロールするが、本戦終盤に永見が右ストレートのクリーンヒットで効果を奪い返し、判定では旗が双方に2本ずつ挙がる。主審は延長を選択せず、永見勝利を宣告した。

遠藤誠(白・大道塾御茶ノ水支部)vs山田泰輔(大道塾仙台西支部)。
ニーインベリーからのキメ打撃でひとつ、右ストレートでひとつ、効果を奪った山田が本戦勝利。

■男子2回戦

佐々木惣一朗(青・大道塾仙台東支部)vsソムチャ・ヌアナー(大道塾札幌西支部)。
佐々木が左上段回し蹴りで効果を奪い、ヌアナーがいわゆるデラヒーバガードからのバックテイクを狙う。佐々木の本戦旗判定5-0勝利。ムエタイ出身選手が寝技で攻め、日本人がムエタイ出身選手を打撃で下す……かつての異種格闘技戦的な展開が見ものだった時代とは隔世の感あり。

鈴木誠士(青・大道塾三沢支部)vs佐々木龍希(大道塾総本部)。
鈴木が気持ちで引かず、寝技で下になっても巧みなガードワークをみせ、本戦判定では鈴木に1本、佐々木に3本の旗が挙がり、主審は引き分けを宣告。延長では、投げからパスガード、ニーインベリーからのキメ打撃、腕絡み…と流れるような攻めをみせた佐々木が一本勝ちを収めた。

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曽山隆聖(青・大道塾岸和田支部)vs大西凜駿(大道塾総本部)。
大西がレスリング競技経験を活かした豪快な反り投げを決める。本戦判定で大西に3本、曽山に1本の旗が上がり、主審は大西勝利を宣告

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龍野光海(青・大道塾草加支部)vs目黒雄太(大道塾長岡支部)。
龍野は全日本V8の目黒を臆することなく攻め込むが、目黒は落ち着いて対処し、パスガードからマウント、変則的な腕ひしぎ膝固め……と攻め立て、マウントパンチとニーインベリーからのキメ打撃でそれぞれ効果をゲット。本戦で勝利を決めた。

曽山遼太(青・大道塾岸和田支部)vs藤澤純也(大道塾成田支部)。
マウントパンチと左上段回し蹴りでそれぞれ効果を奪った曽山が本戦勝利。

三鬼裕太(大道塾御茶ノ水支部)vs佐々木虎徹(白・大道塾総本部)。
左ハイキック、左ストレートで、旗が挙がる(3本以上には至らず効果とは認定されず)場面をつくった佐々木が本戦旗判定5-0勝利。

伊東宗志(青・大道塾日進支部)vs家弓慎(誠真会館花小金井道場)。
両者譲らぬパンチの打ち合いの中、伊東がワンツーのクリーンヒットで効果を奪い、本戦旗判定5-0勝利。

宮沢琉伊(青・大道塾東京北支部)vs谷井翔太(大道塾横須賀支部)。
試合開始早々、膝十字固めで谷井が一本勝ち。

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中村凌(青・大道塾日進支部)vs佐川太郎(大道塾仙台東支部)。
今春全日本-250クラス準優勝の中村が、ボクシングと柔道の経験を活かし、切れのある右ストレートと内股で先制するが、2022年全日本-250クラス準優勝の佐川は度重なるタックルのチャレンジの末、タックルのフェイントからの右ストレートで効果を奪い、逆転。本戦旗判定5-0勝利。

中上悠大朗(青・大道塾総本部)vs藤田隆(大道塾秋田支部)。
2018年全日本-250クラス優勝の藤田に対し、全般、攻勢に立った中上が本戦旗判定5-0勝利。

鈴木浩佑(青・格技会)vs並木仁也(大道塾御茶ノ水支部)。
キックボクシング系の競技でアマチュア全日本優勝歴のある者同士の対戦。今春、全日本初出場にして-250クラス優勝を果たした鈴木に対し、並木はテイクダウンされてからの顔面蹴り、コンパスを活かした上段前蹴り、膝蹴り、頭突き…と波状攻撃を仕掛け、本戦旗判定5-0勝利。

曽山智輝(白・大道塾岸和田支部)vs服部晶洸(大道塾横浜北支部)。
パンチのクリーンヒットをみせる曽山に対し、服部は下段蹴りで崩し、相手の前進に合わせたカウンターの両足タックルを決め、腕十字を仕掛ける。本戦で曽山に1本、服部に3本の旗が挙がり、主審は服部の勝利を支持。

稲葉竜児(白・大道塾仙台東支部)vs林洸聖(大道塾佐久支部)。
右フックで効果、パンチ連打で有効を奪った林は、寝技でも三角絞めの体勢からパンチを浴びせるなどイニシアチブを譲らず本戦勝利。

石川貴浩(青・大道塾安城同好会)vs水村健太郎(大道塾早稲田大学準支部)。
右ストレートでひとつ、ニーインベリーからのキメ打撃でひとつ、効果を奪った水村が本戦勝利

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永見竜次郎(白・大道塾安城同好会)vs麦谷亮介(大道塾行徳支部)。
麦谷は右の上段、中段回し蹴りを中心に距離を取ってのきれいな蹴りを連発するが、永見は前に出る圧力を緩めず、右フックをヒット。効果を奪い、本戦旗判定5-0勝利。

山田泰輔(青・大道塾仙台西支部)vs昨年の全日本無差別王者・西尾勇輝(大道塾大阪南支部)。
自衛隊で日本拳法に取り組んだ山田と、大学日本拳法部出身の西尾の対戦。山田が左右の上段回し蹴りで脅かせば、西尾はツーステップのワンツーや、腰を落としての右ボディストレートなど、いかにも日本拳法出身者らしいフォームをみせつつ、強烈な下段蹴りを叩き込む。今春、全日本+260クラス決勝で下段を効かされ、意識が下段に集中したところで上段回し蹴りを決められて準優勝に終わった山田だが、今回も下段で効果を奪われ、本戦旗判定5-0で敗退。課題がより明確となった。

■男子3回戦

佐々木龍希(白)vs佐々木惣一朗。
共に20歳にして、龍希は14年、惣一朗は15年のキャリアを誇る。本戦は互角の打撃により龍希に2本、惣一朗に1本の旗が挙がったが、延長で、腕十字からマウントに戻ってパンチを放ち効果を得た龍希が、膝つきの諸手背負い、小内刈りで後ろに崩してからの一本背負い……と組み技で畳みかけ、勝利を決めた。

目黒雄太(白)vs大西凜駿。
目黒は寝技でのガードワークにおいて、大西の両襟を引き付けつつ顎に膝を押し込んだり、十字絞めを仕掛けたりで距離を取らせると、下から掴み打撃を連打。効果を得て、本戦旗判定5-0で勝利。

曽山遼太(青)vs佐々木虎徹。
本戦旗判定、右の蹴りをボディに刺した曽山に旗が1本、豪快な大腰を決めた佐々木に旗が3本挙がり、主審は佐々木の勝利を宣告。つい最近まで「U19で輝かしい戦績を残し、一般に昇格したチャレンジャーとしてベテランに挑むホープ」という印象のあった曽山だが、25歳となり、U19から昇格してきたばかりの20歳の挑戦を受け、そしてトーナメントの先を譲る立場となった。巻き返しに期待したい。なお、今大会では、遼太(25歳)、智輝(23歳)、滉平・隆聖(20歳、双子)と曽山兄弟4人が全日本同時出場を果たしたが、これを破る記録は今後生まれないのではないだろうか。

伊東宗志(青)vs谷井翔太。
本戦旗判定、相撲でいう「切り返し」に類する小外掛けを連発した谷井に3本、パンチで攻めた伊東に1本の旗が挙がり、主審は谷井の勝利を宣告。両者は半年前の全日本-240クラス決勝でも対戦しており、それ以前にも、対戦が多い。トーナメントの組み合わせ作成が、一定の基準による振り分けで機械的に行われるのでなく、人為的に行われている場合、公平を期するために配慮したつもりが同じ対戦が頻繁に組まれる弊害を起こしやすいように思う。AIが発展してきた昨今、そういったテクノロジーに過去のデータを分析させることから「高成績を収めている度合いの順に選手が分散する」「最近対戦した者同士の再戦より、対戦したことのない者同士の組み合わせが優先される」トーナメントづくりができないものだろうか。一方、前回の対戦時と同じような展開で敗れた伊東には、MMA的な胸を合わせてのテイクダウンの攻防の対策を練ることを求めたい。

中上悠大朗(白)vs佐川太郎。
いわゆるスーパーマンパンチをはじめ、パンチをハードヒットさせ、副審1名に2度に渡り旗を挙げさせた(効果認定には至らず)中上が本戦旗判定5-0で完勝。20歳の中上に対し、29歳年上、49歳にしてポイントを献上しない試合を演じた佐川は、さすがにヘッドガードを外すと疲労困憊の表情をみせた。今後、安全面への配慮のため、北斗旗(=シニアやジュニアでない一般のトップカテゴリーとしての)全日本選手権およびその予選大会への出場には年齢制限が設けられる可能性があるようだが、そうなるにしても「シニア(→マスターズ)やU19のトップカテゴリー大会で優勝した者は、その後1年内の北斗旗への出場権を得られる」というようなシステムを組めば、安全性も担保され、武道の理想像を崩すこともなく、多くの壮年・少年の競技参加意欲を維持できるのではないだろうか。+

服部晶洸(白)vs並木仁也。
並木のいわゆるテンカオを凌ぎ、パンチを当てる服部。服部のパンチに合わせ、前足に下段蹴りを浴びせる並木。打撃で互角の展開の中、終盤、谷落としで、ガードの効かないポジションを得た服部が本戦旗判定5-0で勝利。

林洸聖(青)vs水村健太郎。
パンチ連打で効果を得て、一方で持ち上げた相手を頸椎に負担の掛かる角度で落としたこと(いわゆるバスター、スラム)で警告を受けていた林が本戦旗判定5-0で勝利。林は前戦の2回戦では、逆に膝上くらいの高さからのスラムを喰らう側となっており、その際は相手に警告などの宣告はなかった。パンフ掲載のルール表記では、どれくらいの高さ以上から落とすことが禁止行為となるのか、落とすことが禁止行為となる高さに持ち上げた瞬間に「待て」を掛けてもらえるのか、それとも一定時間持ち上げたままで維持しなくては「待て」が掛からないのか、そういったことに関する記載はない。もし、細則ゆえにパンフに掲載していないということでなく、審判の主観に委ねられているというようなことであれば、一定の基準を定めて欲しい。

永見竜次郎(青)vs西尾勇輝。
強烈な右下段蹴りに加え、左中段回し蹴りも巧みに織り交ぜた西尾がニーインベリーからのキメ打撃で効果を得て、本戦旗判定5-0で勝利。永見も右のオーバーハンドをクリーンヒットさせるなど健闘した。

■男子準々決勝

林洸聖(青)vs中上悠大朗。
今春、階級別の全日本選手権-260クラス王者となった21歳の林と20歳の中上は同学年。本戦序盤から、下段蹴りでの探り合い、組んでの膝蹴り・頭突きの攻防と相譲らず、牡牛の角の突き合いの様相。四つの相撲組みから上手投げ気味にテイクダウンを奪った林がニーインからの突きの連打に入るが、中上が足を絡ませ、旗が挙がるには至らず。30秒が経過し、再びスタンドに戻るが、ワンツーをヘッドスリップで躱して組んだ中上の膝蹴りに合わせて林が支え釣り込み足でテイクダウン。中上は股に頭を潜らせたりで、かろうじてニーインからのキメ突きを凌ぐ。その後、打撃の展開は互角のまま、寝技2回の展開を林が支配したかたちで3分が終了し、延長へ。全日本無差別においては準々決勝以降の試合は、本戦において片方(もしくは双方)の選手に2ポイント以上の獲得がない試合は引き分け裁定となるため自動延長となったが、通常の試合であれば、この時点で旗判定で林に軍配が上がったかもしれない。延長では、小刻みなジャブでの出入りで林の打撃を誘発しつつ、右フックから返しの左ミドルをはじめ、有効打の数で勝った中上が終了間際の打ち合いの中で左フックによる効果1つを奪い、旗判定5-0勝利を挙げた。だが大会終了後、中上が一番印象に残っている試合として挙げ「勝ってない。リベンジしたい」と言うほどの接戦であった。同じ年の中上と林はジュニア期には階級が異なり対戦機会がなかった一方、近年、長野県在住の林が時折り大道塾総本部に出稽古に来ており、稽古において切磋琢磨する仲だという。

服部晶洸(白)vs佐々木虎徹。
勢いよく相手に食らいつくタイプでない服部は、これまで強豪にテクニックで競り勝つ試合をみせることもあれば、トーナメント序盤であっさり敗退する姿もみせてきた。今大会の関東地区予選においては2回戦において敗れており、過去の実績により、かろうじて本戦出場権を得たかたちであり、一方の佐々木は、その関東地区予選の優勝者。このような組み合わせの全日本無差別準々決勝において、試合早々、佐々木の打撃をかいくぐってたすき掛けのクラッチでの密着すると、相手の膝の外側に自らの膝を着けて固定し体重を浴びせテイクダウンを奪った服部が、流れるような動きでニーインベリーからファーサイドの腕に腕十字を極めたのだから、武道・総合格闘技の試合というのは面白い。三段論法は通じない、やってみなければ分からない、打・投・極のグーチョキパーでどれが勝つか分からない……そんな醍醐味を表現したかたちである。

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佐々木龍希vs西尾勇輝。
10月19日~20日にアルメニアのエレバンにて開催された「空道ユーラシアンカップ」で-230クラス決勝でロシア人選手に延長判定勝ちしてから2週間の間隔で今大会に参戦、39度を超える発熱がありながら2試合を勝ち抜き、ベスト8に辿り着いた佐々木だったが、ここでドクターストップ。昨年の決勝戦の再戦はならなかった。

目黒雄太(白)vs谷井翔太。
「空のように無限の拡がりをもつ道」である空道においては、キックボクシングなり柔道なり日本拳法なり、様々な出自をもつ選手が、様々な構えや技で闘うが、この二人の独特の構え、足運び、リズム……といったものもまた、この競技ならではのものと捉えられる。サウスポーで低重心、広いスタンスの谷井に対し、両手をダラリと下げたノーガード状態でスイッチしたりと脱力感の漂うスタイルの目黒はいきなりの右ストレートから右上段回し蹴りといったセオリーを覆す打撃を連発する。谷井はかつて、目黒の右上段回し蹴りでKOされたことがあるが、この右ハイに対し、ガード→キャッチ→左足を刈ってテイクダウンしてみせたり、右フックのカウンターを合わせたりと、臆することなく対応してみせる。一進一退のまま本戦3分が終了し、迎えた延長。前半は、谷井がテイクダウンを連発し、前転での膝十字狙いからアキレス腱固めの体勢に入るなど、見せ場をつくるが、終盤に入って、再三再四連発された目黒の右上段回し蹴りがニアヒット、左上段前蹴りも顎を回旋させ、強引な首投げも完遂。ゲームメイクで目黒が上回り、旗判定5-0。

■男子準決勝

服部晶洸(白)vs中上悠大朗。
服部は狭いスタンスで後ろ足重心、前足でリズムを刻み、中上のステップインを前足でストッピングする。それに対し、中上はジャブ的なインロー、縦に蹴るアウトローで服部の前足を崩す。ジャブでの出入りで中上がミスブローを誘えば、服部はパンチに合わせたカウンターのタックルで、中上を宙に浮かせ、テイクダウン。服部は寝技の展開で得意のガードからのフックスイープを決め掛けるが、中上はフィジカルの強さをみせ、バランスキープ。打撃でも組み技でも、互いに決定打を与えない拮抗した展開により、両者ポイントなく、自動延長へ。延長では、打撃のスピードで服部を上回り、相手の打撃をヘッドムーブで躱す反応の良さ、相手の投げを潰す体幹の強さで展開をリードした中上が旗判定4-0で勝利。雅子夫人(旧姓・内藤雅子、2023世界選手権220+クラス優勝)との間に10月23日に第一子が生まれたばかりの服部、軽量(これまでは-240クラス)の選手にして全日本無差別において前々回大会(2019)はベスト4、前回大会(2023)はベスト8、今大会はベスト4と3大会連続入賞を果たしながら、体力別大会含め、未だ全日本以上のグレードの大会においては無冠である。今回は里帰り中でYouTubeでのライブを視ているという妻子が会場で観戦するようになった際には、ぜひとも決勝で勝ち名乗りを受ける姿を披露してほしい。

目黒雄太(白)vs西尾勇輝。
事実上の今大会の決勝戦という空気を纏っていた一戦、試合開始早々、西尾のがワンツー。パンチの威力によるものなのか、目黒が自らスリッピングアウェイを試みた結果なのか、目黒の頭部が回旋する。続いて得意の右下段蹴りをチップする西尾。目黒はワンツーに対し、前蹴りでストッピング。ジャブ的な下段蹴りを放ち、カウンターのチャンスを窺う。しばし静寂の後、両者が同時に右上段回し蹴りを放ち、西尾の背足が一瞬先にヒット。目黒が後頭部からマットに崩れ落ち、西尾の本戦一本勝ち。西尾の右の蹴りといえば、過去の試合において下段の強烈さが印象的であったゆえ、目黒はその下段に合わせてハイキックをヒットさせる狙いをもっていたのかもしれない。前戦の谷井戦で右上段回し蹴りが勝利を印象づけるのに功を奏したことも、その戦略を後押しするものとなっていたか?どよめく場内。西尾は、前年のいわくつきの一戦に完全決着をつけ、昨年の戴冠が相応しいものであったことをあらためて立証してみせたかたちだ。一方、全日本体力別、アジア、世界と3冠を制し、前人未到の4冠に挑んだ目黒の夢は今年も潰えた。過去、最軽量級-230クラスで全日本無差別を制した二人の選手、岩﨑弥太郎と加藤清尚といえば、どちらも左右へのサイドステップで的を絞らせない展開をつくり、相手の懐へ飛び込むフットワーカーであり、プレスを掛ける展開から相手を仕留めるタイプの軽量級の王者は、小川英樹のようなレジェンドであれ、無差別を制することは達成していない。目黒も動き回るタイプではないので、その点で、重量級選手からしたら、照準を定めやすいのかもしれない。なお、目黒は担架で運ばれ、病院に搬送されたが、検査結果を経て、その後、稽古復帰を果たしているとのこと。

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■男子決勝

中上悠大朗(青)vs西尾勇輝。
178センチ・90キロ・31歳の西尾勇輝と、172センチ・73キロ・20歳の中上悠大朗の対戦。身長差6センチ、体重差17キロ。準決勝で芸術的なKOを決め勢いづく西尾と、茶帯を締める中上とのマッチアップは、西尾の連覇により大会が締めくくられる「絵」を予期させるものであったが……。時折ツーステップを交える日本拳法仕込みのワンツーと強烈な右下段蹴りで相手にプレッシャーを掛け、右ハイキックを狙う西尾に対し、中上は絶妙の見切りでスイスイとヘッドスリップ。延長戦では、小外刈でテイクダウンに成功し、ハーフガードで凌ぐ西尾の上半身を固め、マウント方向に足を抜き、パンチ連打のジェスチャー。効果ポイントを奪い、旗判定5-0で勝利を決めた。中上は20歳とはいえ、空道歴は14年。高校卒業まで大道塾小樽支部に在籍し、現在は同総本部内弟子。昨年の全日本無差別ベスト8が唯一の大会入賞歴であるが、そのベスト8は試合中の肩の脱臼により試合継続できない状況になったゆえの結果であり、その後、治療~リハビリのために戦線を離れていたこともあって、復帰し全力を開放したら優勝戦線に割って入るのではないか……と噂される逸材ではあった。空道界に新たなエース候補が現れたかたちである。連覇を逃した西尾だが、そもそも昨年優勝時に引退を表明しており、今回出場したのは「試合後『相手の反則で勝った』みたいな言われ方をしたんで、もう一回出て、出せるものを出し切りたい」と思ったからであり、今回の結果については「嬉しくはないが、やり切ったんで、さすがに引退しよう」と考えているという。すでにワールドカップ出場は辞退することを組織に伝達済みとのこと。一方、中上は「ホッとしています。前回、肩外れて悔しさがあったので、優勝を目標に練習を積んできました。(決勝での勝因については)最近、組み技の練習は積んでいたのでその成果が出ました。(目黒選手との試合を観て、西尾選手の右上段回し蹴りが怖くなかったかについては)上段回し蹴りの怖さによってプレッシャーを掛けられて、逆に『この人とどのくらいできるんだろう』とスイッチが入りました。(右ストレートと右上段回し蹴りを見分けてディフェンスしていたのかについては)感覚で動いていて、みてからよけるというよりは、来そうだからよけていました。距離感で『ここは(ヘッドスリップしても)ハイは当たんないかな?』とか、そういう感じです。(今後については)世界チャンピオンとなって、空道という競技を世界に広めたい」と空道全日本王者の称号に気後れする様子もなく矜持を覗かせた。

■女子準決勝

宮梨江(青・大道塾総本部)vs廣田晴香(大道塾富田林支部)。
マウントパンチで効果を得た宮が本戦旗判定5-0で勝利。

小野寺玲奈(青・大道塾帯広支部)vs小関沙樹(大道塾仙台東支部)。
ロシア人選手を彷彿とさせる豪快なヘッドスリップしながらの打ち下ろしフックをヒットさせた小野寺が本戦旗判定5-0で勝利。全般的に小野寺攻勢の中で、小関も相撲でいう切り返し的な小外掛けでテイクダウンに成功し、2023世界選手権代表としての意地をみせた。

■女子決勝

宮梨江(白)v小野寺玲奈。
両者激しくステップを刻む中、宮のパンチに対しヘッドスリップで懐に入った小野寺は腋を差して後ろ帯を持ち、内股で投げてニーインベリーから突き。効果を得た小野寺に対し、宮は下からの腕十字のカウンターを狙う。延長戦、小野寺は、左上段回し蹴りをスウェイバックで躱した宮を右上段後ろ回し蹴りで脅かし、場内をどよめかせる。間髪入れず、ヘッドスリップでパンチを躱しながら襟を掴んでサイドに回っての上段回し蹴り、内股と流れるような展開でニーインからの突きで再び効果を奪い、旗判定なしの完勝。2023世界選手権、2024全日本体力別と決勝を争ってきた大倉萌が肺炎のため欠場し、ライバル不在の一人旅となった小野寺だが、集中力に乱れはなく、敗れた宮も、組み技の展開で頭突きをヒットさせるなど、空道ならではのテクニックをみせていた。「萌先輩との対戦に備え対策を立てていたので残念ではありましたが、1試合1試合勝っていくのが私のモットー」と振り返る小野寺。2週間前のユーラシア大会では決勝でロシア人選手に敗れていたが「海外選手特有の力の強さは感じたんですけど、正直、今後、自分がしっかりやれば勝てると思っています。決め手に欠ける試合をしてしまったので、そういうところを改善して明らかに勝ったよねといえる試合が出来るよう、世界も見据えて頑張っていきたいと思います」と、確かな手応えを掴んだ様子。来たるワールドカップでのロシア人選手へのリベンジ、成るか?

■雑感

北斗旗を長田賢一・全日本空道連盟理事長より授与される中上。道場別獲得ポイント順位は1位:大道塾総本部、2位:大道塾横浜北支部、3位:大道塾大阪南支部であった。閉会式で長田理事長はマイクを通じ「厳しい状況は変わらない。ワールドカップへ向け、道は遠い。ベスト8に入った選手は、パワーもスピードも確かにあるが、まだまだ技を大きくすること、追求することが足りない。一発で倒せる技を磨いてほしい」と、ヒットマンと呼ばれた経歴の持ち主らしい要望を選手たちに語った。

入賞者。後列左から時計回りに服部、西尾、中上、小野寺、宮、谷井、佐々木(龍)、林、佐々木(虎)。目黒は病院に搬送されたため、不在。

併催の全日本空道ジュニア選手権大会ダイジェスト

U19女子―215クラス。
西田美玖莉(大道塾豊田大谷高校支部)が昨年2023年優勝の遠藤すず(大道塾石巻支部)と一昨年2022年優勝の相内春花(大道塾青森支部)を連破し、優勝(写真は決勝で、白が西田、青が相内)。相内や遠藤は幼年期から空道に取り組んできた選手で、西田は空手を学び、高校入学後、空道に取り組みはじめた選手。様々な経歴が活き、それがクロスオーバーすることで、刺激を受け得ることが、空道という競技の面白いところといえよう。

U19男子―240クラス決勝。
相原琉唯斗(大道塾仙南支部・青)が佐々木翼(大道塾高尾支部)から投げ→キメ打撃で効果を奪い、腕十字を決めかけ、右ミドルをキャッチしての右ストレートで効果を追加し、完勝。打撃から投げ、寝技まで、空道ならではの技の連繋が見事だった相原だが、まだ16歳の高校1年生。大学1年生の18歳までが出場するこのU19クラスを、カテゴリーに昇格したばかりの年齢で制してしまうとは末恐ろしい……。相原はじめ今大会でU19を制した面々が一般クラスに昇格した際の活躍が楽しみではあるが、ジュニアクラスで活躍した逸材が、空道に〝十代まで限定の青春の1ページ〟という思いで取り組んでいて、就職や大学進学後は競技から離れるケースも多い。それはそれで尊いことだと思うし、一方で、この競技におけるピークパフォーマンスが得られる30代まで、より多くの選手が競技継続に対するモチベーションを継続できるよう、競技組織には、よりよい環境やインセンティブの確保に尽力してほしいとも思う。