写真:全日本空道連盟広報部 はいチーズ!フォト
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2024全日本空道体力別選手権大会 全試合ダイジェスト
男子-230クラス
■1回戦
小芝裕也(青・大道塾岸和田支部)は鈴木誠士(大道塾三沢支部)から右上段回し蹴りで効果を奪い、本戦旗判定5-0勝利。
田中脩斗(青・大道塾日進支部)vs 龍野光海(大道塾草加支部)は田中が右フックで、龍野が右ストレートで効果を奪い合う熱戦の末、田中が連打で効果を追加し、本戦決着。
巻礼史(大道塾筑紫野支部)は本戦1分58秒、腕ひしぎ十字固めで吉田透尉(大道塾名古屋北道場)に一本勝ち。
月東玲真(大道塾草加支部)は、成田夕介(大道塾札幌南支部)の膝関節損傷により、本戦一本勝ち。
■2回戦
佐々木龍希(白・大道塾総本部)はマウントパンチ、投げからのキメで効果を奪い、小芝裕也に本戦勝利。
田中脩斗(青)が投げからのキメで効果を奪い、この階級の全日本準優勝2回のベテラン・近田充(大道塾多賀城支部)に本戦旗判定5-0で勝利。
目黒雄太(白・大道塾長岡支部)は離れては蹴り、組んではグラウンドでのガードワークからのパンチで試合の流れを支配し、本戦旗判定5-0でベテラン・巻礼史を寄せつけず。
月東玲真vs中川昇龍(白・大道塾岸和田支部)はタックル、アキレス腱固めと組み技では優位に立った月東を、中川が打撃で振り切り、本戦旗判定5-0勝利。
■準決勝
20歳同士の対戦。佐々木龍希(青)がパンチをヒットさせれば、田中脩斗は右ロー、左ミドルと一進一退の攻防。グラウンドの展開でも、顔面を膝で制してのキメを狙う佐々木に対し、田中はインバーテッドガードからヘッドシザース。本戦旗判定4-1というスプリットデシジョンで佐々木が決勝へ駒を進めたが、田中も、今後におおいに期待を感じさせた。
目黒雄太(青)は2019年U19 -230クラスで全日本優勝の中川昇龍にいい場面をつくらせず、本戦旗判定5-0勝利。
■決勝戦
目黒雄太(白)は佐々木龍希にハイキックで先制すると、頭の位置を変えながらの右ストレートなど、リラックスした攻めをみせる。佐々木の背負投に対しては、猫が空中で身体を翻すか如く、バランスを維持してみせ、逆に首投げ一閃。佐々木を肘の脱臼に追い込み、v8を決めた。
男子-240クラス
■1回戦
佐々木虎徹(白・大道塾総本部)は篠原裕貴(大道塾仙台中央支部)から顔面への膝蹴りで効果、左フックで有効を奪い、本戦勝利。
19歳の曽山滉平(白・大道塾岸和田支部)は昨年2023年のU19 -230クラス全日本優勝者、18歳の林凌聖(大道塾佐久道場)を旗判定4-1の接戦で制す。
曽山隆聖(青・大道塾岸和田支部)が本戦旗判定5-0で田中誠一(大道塾札幌西支部)に勝利。
■2回戦
佐々木虎徹(青)の勢いのある打撃を凌いだ伊東宗志(大道塾日進支部)は、本戦終了間際にパンチで効果を奪い、本戦旗判定5-0で勝利。
佐々木惣一朗(青・大道塾仙台東支部)vs曽山滉平は本戦旗判定で副主審が引き分け妥当とする接戦ながら、副審3名と主審が佐々木を支持し、決着。
谷井翔太(白・大道塾横須賀支部)がレスリング系のテイクダウンを重ね、本戦旗判定5-0で曽山隆聖を下す。
家弓慎(青・誠真会館花小金井道場)VS鶴田陸(大道塾朝倉支部)は一進一退の打撃戦の末、延長旗判定5-0で家弓が勝利。
■準決勝
伊東宗志(青)VS佐々木惣一朗は、今大会随一ともいえる盛り上がりに。本戦1分36秒、佐々木が右ストレートで効果、2分41秒、伊東が右ストレートで効果。本戦引き分けで、延長0分4秒、伊東が左フックで効果、2分15秒、佐々木が右ストレートで効果。効果2つずつを奪い合いあった後、延長2分41秒、伊東が右ストレートで効果を追加し、勝利を決めた。延長戦が終了した瞬間、疲労困憊でしゃがみ込む両者に場内から拍手が沸いた。
谷井翔太はフルコンタクト空手式の内回し蹴りで家弓慎の顔面(ヘッドガードのプラスチック部分)をスナッピーに弾き効果を得た後、膝十字固めで一本勝ち。右利きサウスポーで、オーソドックスに対し、遠い間合いから前足の中段横蹴り→上段内回し蹴りを放ち身体の開いた側を捕え、中間距離での打ち合いをせず、間合いを詰めて密着系のテイクダウンから足関節技……。標準的なスタイルの逆を突く戦略的な闘い方をみせた。
■決勝戦
真っ向から殴り合いをしたい伊東宗志に対し、谷井翔太は遠間での変則的な蹴り、密着してのテイクダウンを徹底して仕掛ける。両者ポイントなく、自動延長の末、旗判定5-0で谷井が勝利。空道における旗判定の基準は一般的なMMA競技よりも打撃のダメージ重視であり“転がすようなテイクダウンから寝技で攻めるシーンを度々みせた側が、効果以上のポイントを取れていないかぎり、旗判定では、打撃において多少なりともヒット数で上回った側に敗れる”ケースが多い。そう考えると、伊東を評価する審判がいてもおかしくない気はしたが、十分な差が認められるほど打撃をヒットできておらずテイクダウンを喰らいすぎれば、旗は得られないということか。これで伊東は谷井に3戦3敗。伊東にとって谷井のようなタイプは“嚙み合わない相手”といってしまえばそれまでだが、今後、世界の頂点に日本の旗を掲げるには、準決の佐々木戦のような心地よい打ち合いだけでなく戦略的な闘いも選べるようになる必要はあるだろう。とはいえ、この階級、佐々木虎徹20歳、佐々木惣一朗20歳、林隆聖18歳、曽山滉平19歳、曽山隆聖19歳、鶴田陸21歳と、ジュニアカテゴリーで実績を積んで北斗旗(一般の全日本選手権)に昇格してきた新世代の進撃をきっちりと喰いとめた33歳の谷井と27歳の伊東が決勝でみせた展開は“スピードや柔軟性や勢いがあればそれだけでベストになれるものじゃない。年輪を重ねて、技術や精神力を磨き上げてこそ、その人の最高到達点に達する”というこの競技の面白さを表現するものであった。
男子-250クラス
■1回戦
キックボクシングの老舗団体・マーシャルアーツ日本キックボクシング連盟の現役ウェルター級王者である小川悠太(白・誠真会館所沢道場)が左ボディアッパーで鈴木宙(大道塾横浜北支部)から有効を奪い、本戦勝利。
決して華やかスタイルではないがインサイドワークで競り勝つ頭脳戦を得意とするベテラン、42歳の飯田諭(青・大道塾大宮西支部)と、2019・2022春とU19 全日本-260王者、20歳の田中衆太(大道塾西尾支部)の対戦は、本戦で飯田に1本、田中に2本の旗が挙がり延長に突入する互角の展開。延長で上段アッパーや上段膝蹴りを決めた田中が旗判定5-0で振り切った。
鴇田洸二郎(青・大道塾多賀城支部)は犬塚柾秀(大道塾日進支部)から右フックで効果を奪った後、送り襟絞めで本戦一本勝ち
中村 凌(白・大道塾日進支部)は2022全日本シニア選抜重量級重量級優勝の平田裕紀(大道塾東中野支部)を本戦旗判定4-1のスプリットで下す
三鬼裕太(青・大道塾御茶ノ水支部)は 髙島良太(大道塾西尾支部)に前腕による絞めで本戦一本勝ち
■2回戦
小川悠太(青)が本戦終了1秒前に田中衆太からパンチで効果を奪うが、田中の有効打も多かったため、旗判定で引き分けに。延長に入ると、田中の集中力に乱れが見え始め、一方の小川はよりプレッシャーを強め、左ストレートから左ハイでダウンを奪い、技有り。U19から北斗旗(一般の全日本)に昇格して間もない20歳の田中と、プロ11戦、29歳の小川の経験の差が表れた。
中村凌(白)が内股で投げれば佐藤裕太(大道塾横浜北支部)はハイキックで攻め、本戦引き分け、延長も旗判定3-2の接戦で中村が競り勝った。
寺阪翼(白・大道塾総本部)は組んでからの膝蹴りや左フックで攻め、本戦で三鬼裕太(大道塾御茶ノ水支部)に旗判定5-0で勝利。
■準決勝
1回戦シード、2回戦は対戦相手の鴇田洸二郎の負傷棄権により不戦勝だったため、この準決勝が初戦となった鈴木浩佑(白、西日本予選優勝、格技会)は、中高柔道部→キックボクシングでアマチュア全日本トーナメント優勝の実績を持ち、キックボクシングのプロ日本王者である小川悠太に対し、組み技で攻め、本戦旗判定4-1で勝利。「柔道での対応はできないだろうと、カーフキックを蹴って組んでキックボクサーの試合をさせないようにしようとしたのがハマりました」とのこと。様々な武道・格闘技の技術を活かすことで相手の穴を突くことのできる空道の面白さを、競技主管団体である大道塾ではない団体の所属選手が表現したかたちだ。
1年前の世界選手権に出場した多くの日本代表選手が休養する中で、今大会から戦線復帰した寺阪翼は、2年前に勝利したことのある中村凌に対し、軽快に攻め込むが、本戦終了10秒前、右ストレート一発で大の字に。中村の一本勝ち。中村は柔道を経てアマチュアボクシングでは高校時代県2位の成績をもち、KOを得たパンチは顎でなく顔面部分を打ち抜いたもの(通常は意識喪失には至らない当たり方)だっただけに「タイミングがよかったのかな?」と振り返る。
■決勝戦
延長戦終了8秒前、タックル気味に組みつきにいった中村凌を引き落とし、亀状態にしたところでキメ突きを放った鈴木浩佑が効果を得て勝利。鈴木は、今大会の予選出場が初めての空道ルール挑戦であったが、離れては肘打ち等を含むキックボクシング仕込みの打撃、組んでは柔道式の投げ、グラウンドでは、太腿部分への重力方向の直接打撃など、空道で許される技術を存分に活かしていた。それだけのクレバーさをみせつつ「空道の(主管団体である大道塾の昇段審査を受けて)黒帯を取得していないから」と、他武道の有段者でありながら白帯を巻いて出場し「1回戦がシードで2回戦が不戦勝で体力的にラッキーだった」と振り返るなど、その姿勢は謙虚。一方の中村も、学生時代は部活動で柔道とボクシングに身を浸し27歳で大道塾に入門して4年という、最近の潮流である“幼少~少年期から大道塾に入門し空道ルールに沿った稽古~試合を積んでいる”選手たちとは異なる経歴の持ち主。そんな異色の二人は、西日本地区の予選決勝でも対戦していた(鈴木が旗判定勝利)だけに「まさか、全日本の決勝でも当たるとは……」と試合後、微笑みとともに労いあっていた。競技人口のピラミッドの上層部をジュニアカテゴリー出身者ばかりが占めるようになるより、この二人のような出自の転向者たちが戦果を残しうる方が、競技としての面白さは維持されよう。空道という競技の技術多様性は、それを可能たらしめる。
男子-260クラス
■1回戦
林洸聖(青・大道塾佐久道場)は金子剛(大道塾秋田支部)から、効果2つ(左フック、右フック)を奪った後、技有(連打)を追加し、本戦勝利。
■準決勝
組んでの頭突きなどで責める永見竜次郎(白・大道塾安城支部)に対し、昨年の世界選手権のこの階級のベスト4、麦谷亮介(大道塾行徳支部)は手堅くマウントパンチで効果を得て本戦勝利。
林洸聖(白)が本戦2分53秒、右フックで効果を得て、江刺家奨(大道塾総本部)に本戦旗判定5-0で勝利。林の父親である林忠臣氏(大道塾佐久道場責任者)は90年代前半、長野の喧嘩師として空道(北斗旗)に挑み続けた選手であるが、その挑戦を圧倒的な攻撃力で打ち砕いていたひとりが、この試合の主審を務めた武山卓己氏(写真右、92~94全日本体力別優勝、現大道塾仙台東支部支部長)である。一枚の写真に、この競技の歴史の蓄積を感慨深く思う。
■決勝戦
麦谷亮介vs林洸聖。かつては打撃一辺倒だった麦谷がいわゆるインバーテッドガードからオモプラータへ展開するなど寝技の向上ぶりをみせ本戦終了。延長戦でも旗が2本ずつ両者に挙がるまったくの互角で主審が再延長をコール、再延長も両者ポイントを相手に許さず、大腰でのテイクダウンに成功し寝技で上をキープするなど微差ながら攻勢を得た林洸聖(青)が旗判定5-0で9分間の死闘を制した。
男子260+クラス
■1回戦
山田泰輔(白・大道塾仙台西支部)は遠藤誠(大道塾御茶ノ水支部)から右上段回し蹴りで一つ目、マウントパンチで二つ目の効果を奪い、本戦勝利。
■準決勝
フルコンタクト空手の世界で全日本大会優勝、世界選手権準優勝と輝かしい戦績を誇り、空道競技に取り組みはじめて2年の宮原穣(大道塾東中野支部)が巧みなテイクダウンをみせるなど、トータルファイターとしてのスキルアップをみせ、右下段蹴りで効果を獲得するが、石川貴浩(大道塾安城支部)も右ストレートで効果を奪い返し、本戦の旗判定は宮原に2本、石川に1本挙がり、副主審・主審は引き分けを支持。延長も互角の展開となり、旗は宮原に2本、石川に2本と割れ、主審が宮原の勝利を選んだ。
山田泰輔(白)は右ストレート、右ハイ、踵返し(アンクルピック)によるテイクダウンから、マウント→腕十字に至るまで、突き・蹴り・テイクダウン・寝技と全面的な技術をみせ、高瀬晴日(大道塾日進支部) に本戦旗判定5-0で勝利。
■決勝戦
宮原穣(白)vs山田泰輔。山田はテイクダウンを奪われても、巧みに身を翻してキメ突きを放ち、効果が宣告されてもおかしくない場面をつくり、宮原の左中段回し蹴りに右ストレートを合わせるなど、器用なところをみせるが…。宮原はサウスポースタイルから左下段蹴り(オーソドックスの山田の前足へのインロー)を効かせ、山田の意識を下段に下がておいて左上段回し蹴りを一閃。豪快にマットに這わせた。本戦で宮原の一本勝ち。意識喪失した山田の頭部がマットに落ちる前にその体の支えに入り、副審たちの旗が一本のラインに達する前に試合終了を宣告し、ドクターの登壇を待たずにヘッドガードを外す作業に入るなど、小川英樹主審の判断・反応の速さ、迅速な対応も賞賛に値しよう(大会ベスト審判賞を受賞)。
女子-220クラス
■1回戦
大倉萌(青・大道塾吉祥寺支部)は鈴木彩音(大道塾日進支部)からニーインベリーからのキメ突きで一つ、パンチと肘の連打で一つ、計2つの効果を奪って本戦勝利。
小野寺玲奈(青・大道塾帯広支部)は廣田晴香(大道塾富田林支部)から投げ→キメ突きで効果を2つ奪い、本戦勝利。
■決勝戦
大倉萌(白)vs小野寺玲奈。試合の全体的な流れをコントロールしているのは大倉なのだが、要所で強い攻撃を印象づけるのが小野寺だという印象。本戦1分47秒、掌底フックの連打で小野寺が効果を奪い、以降、大倉も上段前蹴りや右ストレートをヒットさせるなど猛追するが、延長戦では道着を掴んで引きつつサイドに移動することで遠心力をかけてのハイキックで効果を奪いかける(旗2本)など、攻撃の手を緩めない小野寺が振り切った。
マスターズクラス
■ワンマッチ
かつて北斗旗で上位入賞を果たし現在は高齢である選手、シニア全日本選手権で上位入賞を重ねた選手によるカテゴリー「マスターズクラス」。その試合がワンマッチ形式・2分×2ラウンド制で、北斗旗&シニア全日本の決勝前に実施された。
14・19・21・22年シニア全日本軽量級優勝の糸永直樹(青・大道塾草加支部、弐段、55歳空道歴19年)が渡邉慎二(大道塾浦和支部、六段、61歳、空道歴40.5年)の左の蹴りのカウンターが到達するより一瞬速く、パンチをヒットさせる。低空タックルによるテイクダウンを決め、2ラウンドに右フックで効果を奪った糸永が勝利。
北斗旗の決勝前に、何らか(演武など)が実施されない場合、トーナメント前半からの決勝進者と比べて、トーナメント後半からの決勝進者は、準決勝終了から決勝開始までの休息時間が半分の時間ほどしか取れないことになりがちだが、マスターズの試合をワンマッチで北斗旗決勝前に実施することが定例化すれば、北斗旗の決勝進出者両名のコンディション差を緩和することが出来るし、注目が集まる舞台となるゆえマスターズマッチに出場する者のモチベーションも上がるだろう。
将棋の〇△王戦のイメージで「糸永がマスターズ王座防衛1回を達成」というような捉え方を認知させれば、マスターズというカテゴリーの権威も高まってゆくのではないだろうか。
北斗旗決勝前のマスターズマッチが“やはり年齢には勝てない、往年の技のキレを欠いた展開”となれば、それはそれで、続く北斗旗決勝の見映えをよくする引き立て役の役割を果たすし、マスターズマッチがアメージングな内容となれば、若い世代の負けん気を刺激することにもなろうし、空道が経年に関係なく輝けるものであることの証明ともなるだろう。つまりは、どう転んでも、マスターズカテゴリーの試合実施は空道の普及によき効果を及ぼすわけで、今後、北斗旗決勝前のワンマッチを定例化しうるだけの往年の名選手たちの挙手があることを望みたい。
全日本空道シニア選抜選手権大会決勝ダイジェスト
■軽量級
糸永がマスターズに昇格したこのカテゴリー、糸永と決勝を争ってきた水野栄治 (青・大道塾多賀城支部)が決勝で大貫浩治(仙台東支部)から右フックによる効果を奪い、優勝。
■中量級
決勝。菅剛志(青・大道塾横浜北支部)が本戦旗判定5-0で田中成生(大道塾富田林同好会)を下し、優勝。
■軽重量級
小川哲朗(白・大道塾筑紫野支部)が決勝本戦旗判定5-0で藤原一弘(大道塾名古屋北道場)を下す。
■重量級
決勝。小林悟(青・大道塾帯広支部)が本戦旗判定4-0で江本孝弘(大道塾広島中央支部)に勝利。
■超重量級
決勝。パンチ連打で効果、有効を奪われた平山修(青・大道塾筑紫野南支部)がマウントパンチで齋藤翼(大道塾多賀城支部)から効果を奪い返し、腕十字で本戦逆転一本勝ち。
雑感
北斗旗入賞者。上段左から時計回りに、宮原、山田、麦谷、林、中村、鈴木、小野寺、大倉、目黒、佐々木、谷井、伊東。なお、最優秀勝利者には宮原が選出され、北斗旗を授与された。宮原は「東孝賞」も受賞。道場別獲得ポイント順位は、1位:大道塾日進支部 2位(同点):大道塾岸和田支部 大道塾総本部
シニア全日本入賞者。
-240クラス。谷井が決勝でみせた内股は、寝技への展開を狙うために前転しながら仕掛けるもの。いわゆるビクトル投げだが、頭頂部からマットに突っ込む反則とみなされる着地になりがちだし、相手が踏ん張れば、側方に同体で倒れこむかたちとなり、(蟹挟み同様の)相手の膝に捻りを加えて障害を負わせるケースを生みやすい。ビクトル投げ自体を反則行為とすべきか、検討すべき時期なのかもしれない。
-250クラス王者の林洸聖が親子2代に渡って北斗旗出場を果たしていることを述べたが、-230クラス準優勝の佐々木龍希の父親も元北斗旗戦士であり、-230クラス優勝の目黒雄太のセコンドを務める(写真右)のは、大道塾長岡支部で稽古を共にする目黒の父親である。北斗旗がスタートした1980年代のスポーツ界の定番であった二本線入りジャージズボンが視界に入れば、自ずと、この競技の44年の歴史の重みが感じられる。
マスターズマッチにおいては、マスターズマッチの企画・運営を行う側と審判団との間の、ルールや審判方法を廻る擦り合わせが不十分だったようで、パンフレット等にもそのルールの記載がなく、試合場に選手を向かい合わせたまま、数分間に渡りルール確認の審判ミーティングが実施された。一元管理のもと、事前の準備を整えてほしいということとともに、北斗旗・シニア・ジュニアいずれも含めて、一定時間試合が中断する場合は、試合コートに選手を置き去りにせず、選手の体をセコンド側に向けるよう指示を出すなど、配慮してほしいということを思った。
総評
U13(≒小学生)で投げ、U16(≒中学生)で絞め・関節技、U19(≒高校生)で顔面パンチが認められる……徐々に大人のルールに近づいていくシステムをジュニア(少年)競技ルールに敷いてから年月を経て、高校卒業後、スムーズに北斗旗(一般の空道ルールによる全日本選手権)で活躍できる選手が増えた。
一方で、ベテラン選手や他競技からのコンバーテッドが、そういった若い選手に、経験の差をみせつける試合も多かったうえ、-260クラス優勝の林のように、ジュニア競技に長年出場しながら実績を残すことはなかったにもかかわらず大人になってトップに立つ選手も現れた。
近年、オリンピック等において“メダルを獲得するのがティーンの時期で20歳を過ぎればもはやパフォーマンスは低下していく”といった傾向を感じる競技種目が多々あるが、スポーツ……特に武道系のスポーツであれば、スピードや柔軟性や全身持久力(心肺機能)に対し、年輪を重ねて得た技術量や経験値が拮抗しうる競技というのは、観る側にとって面白く、やる側にとって永年に渡りやりがいのあるアートになりうるのではないか、と感じる。そして、現在の空道は、その領域に入りつつあるのではないか、と。少年期から取り組み大人になっても続ける選手もいれば、他の格闘技・武道からの挑戦者もいて、一方でシニア人口も増えているというのは、この競技で実績を上げることよりむしろ、この競技をプレーすること自体に意義を感じている人口を確保できているということであり、それはスポーツ競技にとって本来あるべき姿なのだと言える。
客観的視点においては、競技大会の入賞者が全員同じひとつの団体に所属しているのであれば「これは内輪の大会なのね」と認識されるのであり、空道という競技にとっては、主管団体である大道塾の選手だけでなく、様々な団体の選手が参加し、さらに日本や世界の頂点に立つ活躍をすることこそが、理想的である。そういった意味では、-250クラスで鈴木選手が優勝したことは、実に喜ばしいことだ。空道連盟としての視点でいえば、当然「大道塾と他団体」でなく、すべての加盟団体が「連盟登録の団体」「ファミリー」であり、競技の場に様々な団体の選手がよりカジュアルに参加しやすいアティテュードを纏うことが競技普及に繋がる道である。実質、現状では、空道連盟の運営に携わっているのは主管団体・大道塾の所属者がほとんどなわけだが、自己の帰属団体をトップに君臨させることで自尊心を保とうとするような浅ましい潜在意識によって排他的な感情をもち、競技普及を妨げては“お山の大将”を量産しているだけの、大道無門の理念とは真逆の行いとなってしまう。今回の大会が、鈴木選手以外にも、プロのキックボクシング王者である小川選手のような高実績の格闘家がこの競技(-250クラス)にエントリーし、純粋培養の(少年期から大道塾に在籍し空道ルール専従の)若い選手たちを下す場となったことに、喜びを感じ、今後もより多くの様々な格闘技術をもった強者たちがこの競技にケミストリーを起こしてくれることを望むことこそが、理念に沿うのだ。
むろん、一方で、連盟の要職を担う立場の幹部が、踵を返して、大道塾所属の立場として、団体所属の選手に対して「君、初めてこのルールの大会に出場した選手に、ずっとこのルール専門で経験を積んできた者が勝てないなんて、とても恥ずべき猛省すべきことだよ!」と発破をかけることは、二律背反ではあるまい。仲良しこよしの世界では人は極限まで自分を追い込むことは難しい。敗北や悔しさ、危機感があってこそ、モチベーションはリミッターを振り切る。おおいに帰属意識から成る対抗心を煽ればよい。
世界選手権翌年はたいていこのような状況になるとはいえ、男女とも重量階級の選抜された人数の少なさは残念に思った(女子に至っては220+クラスの競技実施が見送られた)。各地区予選へのエントリー人数が少なかったうえに、過去実績により出場権をもつ選手が出場を辞退したためにそのような状況になったのだが、軽量階級はヤグラが高く積み上がっているのに対し、重量階級がスカスカだというのは、なんとも寂しい。こういった場合、重量階級は統合して、男子は-230、-240、-250、250+の4階級にしてもよいのではないか。そもそも現行の5階級制にしても国際大会の階級区分とは合致していない(国際大会は6階級)わけだし、北斗旗は81年のスタートから20年は4階級で実施していたわけだし、レスリングなど他競技でも、オリンピックとナショナル大会では階級区分が異なったりする。空道においても、当面はナショナル大会での男子階級は4階級とし、各階級の選抜人数も8~12名(+第1~第3補欠)ほどに絞り込むことで「各階級、同じ人数が選抜されているかたちとすることで、選りすぐり感を出し、選手たちに矜持を抱かせる」「人数を絞り込むことで全日本の名に相応しいレベルの試合内容だけが展開されるようにし、大会のステータスを上げる」「人数を絞り込むことで、大会に要する時間を減らし、より気軽に観戦できるようにする」といったことを狙ってもよいのではないか? 柔道などでも、階級別全日本の各階級の人数は8名ほどに絞られており、それによって、大会のプレミア感は増している。
フルコンタクト空手で輝かしい戦績を残してから、空道競技への挑戦を始めた270+クラス優勝の宮原がみせるまで、「あれはフルコンルールだからこそ使える技」というような常識があったからなのだろうか、空道においてフルコンタクト空手式の内回し蹴りが使われることはほぼなかったと思う。それが今大会では、-240クラス優勝の谷井も実に有効に内回し蹴りを使いこなしていた。誰かが固定観念を覆せば、あっという間に進取の精神をもつ者たちがそれに続く。空道は、技術が行きつくところに行きついてマンネリ化するような競技でなく、まさしく空(そら)のように無限の拡がりをもつ道(みち)であり、この先10年も100年も、今は誰も想像していないような技術・戦略が編み出されていくに違いない。一方で、一時的に流行した技が、その対抗手段も普及するに従い、再びその輝きを失っていくケースも多く、そういった輪廻が螺旋階段を上らせるように競技者たちを導いていくのだろう。