選手列伝

第12回選手列伝 宮原穣

2023/05/01

昨年11月のアジア選抜選手権で彗星のごとく現れた蹴り技師。
極真空手の世界選手権で準優勝、全日本大会優勝の実績をもつフルコンタクト空手家は、なぜ空道に挑み、何を目指すのか? 
驚きの野望がそこにはあった!?

(2023年・全日本空道連盟広報部取材)

――格闘技の道に入ったのは、いつ、何からですか?

宮原5歳のときに極真会館(いわゆる松井派)の千葉県北支部、山本雅樹(1990年全日本ウェイト制中量級4位、1996年第6回全世界空手道選手権出場などの実績をもつ)
先生のところに入門し、空手をはじめました。

――もともと千葉県生まれ?

宮原親の仕事の関係で、石川県で生まれて、その後はほぼほぼ千葉市の稲毛区育ちです。

――5歳で習いごとをはじめるとなると、やはり自分の意思ではなく?

宮原いや、長渕剛さん主演の「ボディガード」っていうドラマをみて、自分からやりたいと言ったそうです。覚えてはいないですが。

――5歳がみる番組としてはハードですね(笑)。長渕さんが極真空手家だったから、極真を選んで?

宮原いや、長渕さんが空手の技を使うアクションシーンをみてそれがかっこよくみえたのか、「カラテをやりたい」って言ったって聞いています。それで、近所に道場ができたので入ったというかたちです。

――たまたまその道場が極真だったということですね。入門時は、極真会館は組織が分裂する前?

宮原94年生まれですので、入門したのは99年頃で、もう分かれていました。

――その後のキャリアは?

宮原小学生時代は県大会くらいでしか勝てなくて、やっと勝てるようになったのは中学生くらいで、日本代表に選ばれるようになってジュニアの国際大会とかで決勝までいけるようになって、15年くらいは松井派に所属していて、松井派の一般の全日本とかに出ていました。 19歳のときに全日本無差別は2回戦、全日本ウェイト制はベスト8までいったくらいです。  20歳くらいで松井派を離れました。

――他のスポーツは?

宮原やったことないですね。部活も入ったことがないです。

――体育の授業で柔道とかは?

宮原やったことないです。

――では、幼少の頃から、ずっとフルコン空手一筋だったのですね。20歳以降は?

宮原山本先生が独立されて、KWFという極真空手の組織に移られたので、後追いで私も先生の開いたヴィクトリーカラテスクールに移ったという感じです。

――KWF……いわゆる松井派でも、新極真でもない、七戸(康博)師範とかのグループ?

宮原いえ、違います。

――では、大石(大悟)師範とかの?

宮原いえ、KWFは海外に本部がある組織でKWUという連合体に属しています。その海外主軸のKWFの支部として日本の支部があるかたちです。KWUは「極真をひとつにしようよ」っていう目標をもった組織で、その主催大会には、松井派の選手は出ないけど、他の派の選手は集まる、新極真からは日本の選手は出ないけど海外の選手は出るという感じです。

――なるほど。で、国内にKWU傘下の道場があるわけですね。

宮原極真館など加盟している団体があって、海外での大会に出場するための日本国内での予選大会があり、22歳くらいからは、年に5回くらい海外で試合をしていました。

――で、その後の実績は?

宮原KWUの世界選手権では、2019年に80キロ以下クラスで準優勝しています。

――国内では?

宮原極真館の全日本選手権はじめ、全日本の名のつく大会がたくさんあって、無差別や85キロ、80キロ級で、3回くらい優勝しています。

――なぜ、空道競技への出場を?

宮原一緒に稽古していた平田さんが空道で優勝した(平田裕紀選手は極真空手で実績を残し、大道塾東中野支部に入門、2022全日本シニア選抜選手権重量級で優勝)時、代々木に観に行っていて、はじめて空道をみて、極真にはない技術があって、できることが多くて、実戦に近い格闘技というか、人間としての強さという意味では、より追求できるかな、と。挑戦してみたいな、と思いました。

――平田選手は、極真空手で同じ組織に所属していたのですね。

宮原いえ。また、別の派閥で、浜井(識安)先生のところです。 ただ、一緒に稽古はしてたんです。

――そういう時代なんですね。

宮原松井派だけは、自派だけで稽古していて交流を持たないですけど、他は、けっこう一緒に稽古しています。

――2022年の全日本シニア選抜選手権を観戦するまでは空道に関する知識はまったくなかったのでしょうか?

宮原いえ。もともとMMAなどは観ていて、セーム・シュルトが(北斗旗に)出ていたことは知っていましたし、岩﨑(大河)さんのことも強いなと思っていました。それと、すごく印象に残っているのは、ロシアで、国営の国民的イベントっぽい大会で、自分が闘って2回負けたことのある極真の選手がキックルールで闘う映像をライブで観ていて、その選手が負けた相手が空道の選手だったんです。

――誰だろう? アダム・カリエフかな? ……後ろ回し蹴りを連発してませんでしたか?

宮原後ろ回し蹴りは(ロシアの選手は)みんなやるから……

――あ、そうですね(苦笑)。……それで、平田選手の所属する東中野支部へ入門した、と。

宮原えぇ。ドラグローブの大会(浜井師範の考案した特殊なグローブ着用による顔面・金的攻撃OKの「第1回全日本極真護身空手道選手権大会」=2022年4月開催、宮原選手は優勝した硬式空手の選手に準決勝で負けて3位)に出た際、来場していた加藤先生(加藤清尚・大道塾東中野支部支部長)に平田さんが「この子、今度、空道をやりますよ」と紹介してくれて。

――始めてみて、いかがでしたか?

宮原知らないことが多くて、だかこそ面白いな、と思いました。最初は寝技もなにも知らなかったので、「覚えることが多いなぁ。これ、出来るかなぁ」と感じたんですが、加藤先生が細かく教えてくださって、早くそれについていこうと、覚えようと、必死な状態です。

――100メートル走を追求してきた人が十種競技に転向したようなものですもんね。

宮原押忍。かなり覚えることが多くて……でも、入門して次の月ぐらいには「世界選手権があるからその出場権を掛けた大会への出場を目指さないか」って言って頂いて、寝技も何も分からないまま、出てみたのが昨年9月の2022アジア選抜選手権の関西地区の予選大会で、そこで優勝してアジア選抜選手権本戦に出場しました。

――で、アジア選手権でベスト4に! 普通に顔面のパンチの打ち合いも組み合いもすべてこなしていましたよね。

宮原投げはまぁ、踏ん張ればいいかな、くらいの感じで(苦笑)。

――現状の技術だったら、下がりながら闘って蹴りを放てる間合いを維持した方が確実に勝てるのではないかとも感じたのですが、そのあたりはいかがですか?

宮原押忍。距離をつくって自分の攻撃だけ当てるのが理想かなとは思っています。本当は。

2022アジア選抜選手権-260クラスにて、上段の回し蹴り、後ろ回し蹴りで相手を追い込む宮原

――ただ、一方で、日本人は丁寧な組手をするからその戦略が採れても、国際大会だと、海外の選手は突っ込んでくるから、それが出来るのか? という面もありますよね。

宮原押忍 まぁ、自分は外国人選手と闘った数の方が多いんじゃないかっていうくらい、極真の海外の大会に出ていて、海外の選手が突っ込んでくるのにはかなり慣れているので。

――それを捌く、回り込むのには慣れている?

宮原押忍、押忍。フルコンタクト空手では、やはり日本の選手は細かなテクニックがあって、外国人選手はテクニックはなくて小細工しない分、パワーがあります。自分にとっては外国人の方が闘いやすいです。どちらかというと日本人の方が苦手意識があるくらいで。空道だとどうなのかはまだ分からないですが……。

――空道も同様だと思います。日本国内で予定調和的にキレイな闘いをしてきた選手が、国際大会でブルドーザーに潰されるかのように敗れていくケースが多いですから、頼もしいです。異例のキャリアの短さで世界選手権代表に選出されたわけですが、世界選手権での目標は?

宮原優勝ももちろんしたいですけど、それより、自分の価値が活かせるような結果を出したいな、と。日本の優勝のために「外国人は自分が止めるぞ」という自信はあります。

――素晴らしい! ところで、今、仕事は?

宮原建設の会社を経営しています。

――20代半ばで経営とは、家業を継いだとか?

宮原いえ。高校を卒業してから現場仕事を5年ほど経験して、海外に遠征にいく時間をつくりやすくするために、25歳になる年に自分で起業して3年目になります。一人で始めて、今は従業員が4人います。

――鳶とか、そういう関係ですか?

宮原いや、内装業です。

――社長?

宮原一応。

――では自由に稽古できる?

宮原自分で予定組めるので、昼間に仕事を入れずトレーニングの時間をつくったりしています。

――独身ですか?

宮原押忍。

――極真空手も継続しているのですか?

宮原大会は今は出ていないんですけど、所属はしています。

――いずれは、今流行りの「二刀流」を? というか、最近、キックボクシングの試合もしているんでしたっけ?

宮原4戦してます。KWUの主催している「SENSHI(戦士)」というブルガリアの興行で、もともと空手の選手に顔面パンチ有りの試合の場を与えようという意図でグローブマッチが組まれていたんですけど、だんだんキックボクサーが普通に試合をするようになって、今、空手家で出ているのは自分だけになって(苦笑)。

――空道の選手がキックボクシングの試合に出る場合、ルール~必要技術の差異に適応するため、専門家のもとで練習を積むケースが多いですが、キックボクシングのジムでも練習しているのですか?

宮原いえ。空道を始めたころに、キックにも取り組み始めて、空道の練習でキックの技術も養っているかんじです。キックのジムに通ったことはないです。自分の考えでは、それで大丈夫か、と。

――でも、もっとも最近のキックボクシングの試合では顔面を骨折したとか?

宮原相手が頭突きをしてきて反則勝ちとなったのですが、眼の周りの骨の淵にヒビが入って。

――目の奥などの骨を折ると、眼球を摘出して手術したりしますが……。

宮原けっこうビビってたんですけど、手術なしで4週間くらい安静にして完治しました。

――脳のダメージもない? 世界選手権出場に問題ない?

宮原問題ないとの判断を頂いています。

――世界選手権後のヴィジョンは?

宮原SENSHIがMMAの試合も組んでいて「出る空道の選手いないか?」とオファーがあるらしいんで、それに出ることも考えています。

――では、フルコンタクト空手、空道、キックボクシング、MMAと四刀流!

宮原押忍。中途半端はよくないので……。ただ、総合的に強くなれば、最終的にはよいのかな、とは感じますし、まぁ、こういった機会に恵まれるのも、自分しかいないとは考えています。

――KWUにはセーム・シュルトも携わっていて、KWU~SENHI関連の技術セミナーで空道の師範・選手が技術を指導したりと、縁があるんですよね。

宮原押忍。うまく絡んでいければと思います。

――ところで、空道の試合で、フルコンタクト空手式の内回し蹴りを何度もクリーンヒットさせているのをみたのは、宮原選手が初めてです。

宮原結構入りますね。そういうのが空道で流行ったら面白いし、逆に空道には自分が知らない技がたくさんあってそれを学んでいて……。そういう交換ができたらよいな、と思っています。自分ばっかり教えてもらって、強くなってもしょうがない、と。

宮原の内回し蹴り。空道で実績を残したフルコンタクト空手経験者としては、滝田巌(極真空手で1990全日本ウェイト制重量級準優勝)以来となる