大会レポート朝岡秀樹
260+ | -260 | -250 | -240 | -230 | 女子 | 総評
260+クラス
○加藤久輝(大道塾安城同好会)
本戦 効果優勢 ※加藤に効果3(いずれも左ストレート)あり
●野村幸汰(大道塾札幌西支部)
左前蹴りで野村(左)のレバーをとらえる加藤。しかし、野村はたじろぐことなく、蹴り足をキャッチし、組み技に持ち込もうとする
加藤が3週間前に総合格闘技イベントHEATのミドル級王者になったばかりであれば、対する野村は2週間前の全日本柔道選手権でベスト16入り、最後は日本最重量級のエース・上川大樹に屈したとはいえ、試合終盤まで食い下がる展開をみせていた。
そんな両者の対戦、加藤が野村に組ませず、左ストレートで効果を奪っては離れ、本戦で勝利を決める。
野村の組み技をいかに加藤が凌ぐかをみてみたかった者にとっては、なんとも味気ない内容だったかもしれないが、加藤がその戦略を選ぶのもやむを得ない理由がある。
実は、現行の空道ルールでは、対戦する選手間の体力指数差が30以上ある場合、片方・もしくは双方の選手が道着を掴んだ状態では、打撃の攻防を行うことが禁じられているのだ。つまり、一方の選手が相手の道着を掴んだ瞬間から“ほぼ柔道”のルールとなってしまうわけだ。
セーム・シュルトが掴んでの打撃で小さな選手の身体に危険を及ぼして以降、定められた規定だが、このルールのもとでは、体の大きな柔道系の選手に体格で劣る打撃系の選手が組みつかれた場合、もはや勝ち目はない。かといって「打撃系の選手は組まれる前に倒せばいい」という理想論が確率的に通じないことは、ここ20年のMMAをみている者なら、誰だって分かることだろう。
“掴んでの打撃”こそが空道の競技としての特色であるとすれば、もはや体力指数差30以上の場合のルールで行われる試合は「空道ではない」と考えることもできるが、とはいえ、社会体育を標榜する空道としては、安全性を最優先にすることも、当然。実戦性と安全性の両立、この二律背反の問題をいかにクリアすればよいのか?今後の大きな課題といえる。
また、ルールの問題はどうあれ「柔道を続けながら、柔術、サンボ、空道を並行してやりたい」という野村のチャレンジ精神は称賛に価する。
考えてみれば、ブラジリアン柔術、サンボ、空道は、道着着用競技として、柔道を父にもつ異母兄弟のようなものである。そもそも柔術が打撃を含む実戦武術であったところを、嘉納治五郎翁が“打撃にかんしては形稽古で修練し、いずれ質の良い防具が開発されたら、競技に取り入れることも考えるとして、まずは普及のために、競技は打撃を取り除いて行おう”と考えて、創始したスポーツが柔道。実戦武術としての柔術のポリシーが前田光世によってブラジル渡って現代まで引き継がれ、寝技で相手を制する技術に特化したのがブラジリアン柔術。講道館で学んだロシア人が本国でアレンジを加え、(柔道がグレコローマン的なものになりつつあるのに対し)独特の組手・投げ・足関節技を発展させたのがサンボ。打撃(空手)側から道着を掴む組技(柔道)にアプローチしたのが空道。
この4競技を制することは、柔術から枝分かれしたすべてを制する壮大な旅であり、木村政彦が求めた道にも通ずるともいえるだろう。
その他の試合
-260クラス
決勝戦
○加藤和徳(大道塾吉祥寺支部)
本戦有効優勢※加藤に有効1、効果2(いずれもパンチ連打)あり
●渡部秀一(大道塾岸和田支部)
不用意に道着を掴んだ渡部に加藤がパンチを浴びせ、効果を連取し、初優勝を遂げた。渡部としては「関節技で一本を取らないかぎりは負け」と覚悟を決めての捨身の戦法だったか。
その他の試合
-250クラス
決勝戦
○アレクセイ・コノネンコ(大道塾東北本部)
延長有効優勢
※コノネンコに有効1(左フック)、効果2(いずれも右ストレート)
●勝直光(大道塾関西本部)
ハイキック、絞めと、果敢に攻めた勝だったが、ポイントに結びつくのは、コノネンコのパンチだった。「明らかに威力がある」と思わせる説得力に、差があったか
その他の試合
-240クラス
決勝戦
○堀越亮祐(大道塾日進支部)
延長効果優勢※左上段膝蹴り
●内田淳一(大道塾総本部)
田中俊輔、田中洋輔、吉浜実哲、巻礼史、我妻猛・・・と実力者が出揃い、世界選手権日本代表の椅子の争奪戦がもっとも激しかった階級。メンバーのなかでは、堀越、内田が抜きんでたところをみせた。さらに決勝では、堀越が、内田の一瞬のバランスの崩れを突き、上段膝を合わせる。力をみせつけた堀越だが、好調・不調の波がある点のみが、心配か。
その他の試合
-230クラス
決勝戦
○末廣智明(大道塾吉祥寺支部)
延長判定4-1※谷井に反則1(金的蹴り)
●谷井翔太(大道塾総本部)
内容的には優勢ながら、反則(金的蹴り)が響いてか、判定に散った谷井。しかしながら、平成生まれ世代(25歳以下で各階級ベスト4に入った男子の面々・・・+260:野村幸汰(22歳)、-260:伊藤新太(21歳)、-250:清水亮汰(18歳)、-230:中村知大(25歳)・谷井翔太(23歳)・目黒雄太(21歳)のなかで、もっとも優勝に近づいていたといってよいだろう。
その他の試合
女子クラス
決勝戦
○庄子亜久理(大道塾多賀城支部)
延長 判定5-0
●前原映子(大道塾北本支部)
庄子が右ストレートや右ヒザで攻め立て、先輩越えを果たした。
その他の試合
【総評】
4回目となる世界選手権だが「今回の日本選手団は過去最強である」と現時点で断言してよい気がする。最終選考大会となった今回の全日本選手権はそれほど熾烈な闘いであった。夢破れた選手たちが、来年以降、栄冠を勝ち取ることを祈りたい。
撮影 牧野壮樹、朝岡秀樹
2014.5.22更新