2016 北斗旗 全日本空道無差別選手権大会 / 2016 全日本空道ジュニア選手権大会

2016全日本無差別 大会リポート

文 全日本空道連盟広報部
写真 牧野壮樹・朝岡秀樹
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[総評]

野村幸汰が清水亮汰から一本勝ちを奪い昨年のリベンジを果たし、両者の対戦戦績が1勝1敗となったことで、来年以降の楽しみを増やす意味ではよき結果となった。
しかし、期待しているからこそ、あえて野村や清水に、課題を提示したい。

1年前同様、野村は、体力指数で50~70ほど下回る相手(清水や目黒雄太)の打撃を顔面や腹で受け止めながら、組みついて自らの攻撃に展開したが、この方法を、世界選手権で、同体格の海外勢にも用いるのだろうか? 2年前の世界選手権でシャロマエフ・エブゲニに、そのすぐ後にはサンボ世界選手権のコンバットサンボ部門でキリル・シデリニコフに、野村はパンチによるKO負けを喫している。顔面や腹で拳足を受け止める戦法は、同体格の日本人にそこまでの選手がおらず、清水や目黒ら高い打撃技術を持った日本人選手の体格が野村よりずっと小さいからこそ、成り立っているのではないか? シャロマエフのレベルの選手は、清水や目黒と同等の打撃のタイミングやフォームの洗練度と、身体で受け止めることが不可能な威力を併せ持っている。清水や目黒の速い打撃に反応する方向で進化をみせねば、2年後の頂点はみえてこないのではないか? 打撃技術の伸び率という面だけを切り取ってみれば、この2年間の成長率は、高いとはいえないのではないか?

そんな課題のみえた野村に対し、打撃をヒットさせつつも効かせることのできなかった清水に対しては「一撃必倒とまでは言わないまでも〝ヒットマン〟の異名をとった長田賢一の時代の北斗旗戦士たちのような打撃の説得力をみせられないものか」というもどかしさを感じる。

清水は昨年ほど野村の組み技を嫌わなかった。つまり、昨年より一段階上の勝ち方を狙ったからこその敗戦ではあったのだが、清水や目黒が組みついてくる野村に打撃を効かせてこそ、あるいは、野村が組み技に頼るのでなく打撃のディフェンス&リターンの技術を発揮してこそ、空道は〝層の厚い組み技競技からの転向者が、ただそのままの技術では勝つことのできない競技〟だと認識される。

野村も、清水も、また、目黒も、その他の選手たちも、運営サイドも、今回の闘いの内容に満足などせず、不満を持つことで、切磋琢磨を続け、この素晴らしいコンセプトをもった競技をより、高いステージに導いて欲しい。

入賞者(左から、東、大谷、山崎、目黒、押木、野村、清水、内田、岩﨑、辻野、加藤)

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[試合ダイジェスト]

■男子

決勝 ○野村幸汰vs清水亮汰×

清水(青)は本戦で左上段回し蹴り、延長で右ストレートで効果を奪い2ポイントリード。それに対し、野村が延長で投げからキメ突きで効果を奪ったのち、腕絡みで一本! 逆転勝利を決めた。

準決勝 ○清水亮汰vs川下義人×

清水(青)が本戦で右ストレートで効果1を奪い、延長で背負い投げから流れるように襟絞めに連繋し、一本勝ち。清水21歳に対し、川下19歳、新世代の空道の完成形をみせつけるかのような、打・投・極の絡んだ美しき攻防だった。

準決勝 ○野村幸汰vs押木英慶×

本戦は両者ポイントなし、延長で野村が投げからのキメ突きとマウントパンチで効果を奪い勝利。清水や川下が現在の空道のセオリー通りともいえる美しい攻防パターンをみせるのに対し、押木は、同じ世代(24歳)でありながら、まったく異次元の闘いをみせる。基本から外れたフォームの攻撃によって、打ち勝つ……名王者・稲田卓也を思わせる〝ヘタウマ〟的闘いぶり。この野村戦でも、後退し続ける展開を続け、反則を宣告されたが、写真をみれば、放たれた打撃には気迫が込められていることがみてとれる。みためだけだとあまり強そうにはみえないスタイルながら、2年連続全日本無差別ベスト4入りを果たしたとなれば、その実力に疑問を挟む余地はあるまい。中学卒業後、進学せずに総本部の内弟子となっていたというキャリアと相まって、異色のキャラクターといえるだろう。

準々決勝 ○野村幸汰vs目黒雄太×

本戦で後退しながらのミドルキックを巧みにヒットさせた目黒(青)だが、金的攻撃を単発でヒットさせたことで、反則を宣告されてしまう(体力指数差が30以上ある場合、上肢・下肢による金的攻撃が認められるが、これは〝立ち技でのみ可〟〝単発の決め技としてでなく他の部分への打撃とのコンビネーションの一環として用いる場合のみ可〟〝連続で金的を攻撃するのは不可〟といった条件つきである)。延長では、野村が投げからのキメ突き、マウントパンチでそれぞれ効果を奪い、旗判定なしでの勝利を決めた。

準々決勝 ○清水亮汰vs岩﨑大河×

総本部の寮生として、先輩後輩の間柄にある両者の対戦。後輩・岩﨑(白)も遠慮なく攻めるが、清水は100キロの岩﨑を支釣込足で崩し、延長では右ハイキックによる効果1を奪った。

準々決勝 ○川下義人vs内田淳一×

本戦で内田が右アッパーで効果1を奪ったものの、延長で川下が右上段回し蹴りで1つめ、左フックで2つめの効果を奪い、逆転勝利。どちらに効果ポイントが入ってもおかしくない、一進一退の攻防が6分間、続けられた。

準々決勝 ○押木英慶vs山崎順也×

本戦は淡々とした展開で五分、延長に入ってから押木(青)が右上段回し蹴りで効果を奪い、接戦を制した。

3回戦 ○加藤久輝vs岩﨑大河×

パンチ連打や左中段回し蹴りで攻めた加藤(白)が、本戦旗判定5-0で完勝した。世界選手権後、無着衣MMAで闘ってきた加藤が2年振りに空道の舞台に帰ってきた目的は、次回世界選手権に向け着衣競技の感覚を取り戻すことと、後輩が成長するための壁となること。もともとケガを負った状態で今大会に挑んだ加藤は、岩﨑に強打の洗礼を浴びせたことで目的を果たしたと考え、棄権。敗れた岩﨑が繰り上がりで以降のトーナメントを闘うこととなった。

3回戦 ○清水亮汰vs伊東駿×

清水(白)は東北地区のホープ、伊東を寄せつけず、投げからのキメ突きで効果を奪い、本戦判定勝利。これまで蹴り技を中心とした打撃に特化した攻めをみせていた清水だが、今大会では、内股などの投げ技や、絞め技への流れるような展開も多くみせていた。

3回戦 ○内田淳一vs田中洋輔×

2012年の同クラス王者であり、前回世界選手権に出場して序盤戦で敗れて以来、上位戦線から離れていた内田(白)が、今春の-240クラス王者である田中(青)を背負投→キメ突き(効果)で振り切り、復活の狼煙をあげた。

3回戦 ○野村幸汰vs辻野浩平×

辻野(青)は、野村の投げ→寝技を2回凌ぎ切り、あわや下からの腕十字を極めるかという場面までみせ、勝利を目前にまで引き寄せたのだが…。〝以降寝技なし〟の状況において、野村は本戦終了25秒前に投げ→立位の状態からキメ突きで効果を奪取。旗判定5-0で勝利を決めた。この日、優勝者・野村にもっとも肉薄したのは辻野であったといえるだろう。得意の右ストレートで効果ポイントを得ていれば、一躍、今大会の主役となるところであった。

3回戦 ○川下義人vs谷井翔太×

本戦は旗判定2-2と、まったくのイーブンだったが、延長戦で川下(白)が、右ストレートで2つ、右ミドルで1つ効果を奪取。前回世界選手権でコリャン・エドガーと接戦を繰り広げた後、大学を卒業し、公務員となり、2年振りにマットに帰ってきた谷井を退けた。

3回戦 ○押木英慶vs加藤智亮×

両者ともにポイントなく、延長で押木(白)が旗判定5-0で勝利。技のフォームの美しさでは明らかに加藤が勝るが、予定調和的なリズムを狂わす押木の試合運びが、加藤の持ち味を殺した。

2回戦 ○山崎順也vs服部晶洸×

本戦は山崎に2本、服部に1本旗が上がり、副主審と主審が引き分けを支持する五分の展開。延長で山崎がパンチ連打によって効果を奪取した。

2回戦 ○目黒雄太vs阿部宏信×

今大会でもっともインパクトのあった試合。右ストレートのフェイントからの右上段回し蹴りで、目黒(青)が阿部を失神させ、担架に乗せた。実は、2回戦開始早々に反則の(故意ではないとみなされる)金的蹴りによって対戦相手を試合続行不可能にしてしまった目黒には〝3回戦進出を認める代わりに、反則1が与えられた状態で試合を開始する〟という条件がつけられており、試合がノーポイントで進めば、自動的に敗退することになってしまう状況であった。逆境を吹き飛ばす一撃。

2回戦 ○加藤久輝vs山田壮×

昨年の-250クラス全日本王者である山田(青)を寄せつけず、左ローキックで1つめ、パンチ連打で2つめの効果を奪い、本戦で加藤が完勝

2回戦 〇野村幸汰vs渡部秀一×

渡部(青)は、得意の投げられながらの襟絞めのセットアップを完了できず、マウントパンチで効果を奪われ、本戦5-0で敗退。絞め・関節技で一本を取ることが出来ずに寝技2回を消費した場合に、明確に野村からポイントを奪えるくらいの打撃技術が欲しいところだ。

2回戦 〇清水亮汰vs八幡義一×

清水(白)が頭突きで1つめ、上段膝蹴りで2つめ、投げからのキメ突きで3つめ、左ハイキックで4つめの効果を奪い、さらに上段前蹴りで有効を奪い、計6ポイントを奪取。さらには投げからの襟絞めをも極めかけ、ハットトリック的な勝利を収める寸前であった。

2回戦 〇辻野浩平vs加藤和徳×

今春、階級別全日本-260クラス1回戦でも対戦した両者。その際は本戦でも延長でも旗の割れる接戦の末、加藤が勝利し、そのまま勝ち進み優勝を遂げていたが、今回は辻野(青)がパンチ連打で2つ効果を奪い、リベンジ達成。

2回戦 〇押木英慶vs西山隆×

押木(青)が、ハイキックで1つめ、マウントパンチで2つめ、膝蹴り連打で3つめ、マウントパンチで4つめの効果を奪い、最後は腕十字で一本。しかし、試合中盤、西山も〝バックスピン手刀打ち〟で効果を取り返し、場内を沸かせていた。

2回戦 〇内田淳一vs神代雄太×

地区予選での結果により、2回戦より出場のシードを得た新鋭の神代(青)に対し、シード権なしで1回戦から勝ち抜いた元全日本王者・内田が、意地をみせる。神代の首相撲からの膝蹴りで効果1つを奪われるも、投げからのキメ突きで1つめ、マウントパンチで2つめの効果を奪い返した。

2回戦 〇加藤智亮vs野田洋正×

今春の階級別全日本-250クラス準決勝でも対戦した両者。その際も接戦だったが、今回も副審も旗は2本が白(加藤)、1本が青(野田)で、副主審は引き分けを支持。主審が白を支持したことで、加藤の本戦勝利となった。

2回戦 〇山崎順也vs寺口法秀×

20歳の山崎(青)がジュニア時代に輝かしい経歴を残し一般部に昇格したキャリアの持ち主なら、寺口も21歳にして10年の空道歴を誇る。新世代対決は、パンチ連打で1つめ、ニーインベリーからのキメ突きで2つめの効果を奪った山崎に凱歌があがった。

2回戦 〇田中洋輔vs安富北斗×

19歳の北海道のホープ、安富(青)に対し、マウントパンチで1つめ、右ストレートで2つめ、左ストレートで3つめの効果を奪い、今春の階級別全日本-240クラス王者・田中が完勝

2回戦 〇谷井翔太vs小芝裕也×

昨年の全日本無差別ベスト8の小芝(青)と、2013全日本無差別3位・2014階級別全日本-230クラス準優勝の谷井は、両者、激しくステップワークをとる戦法ゆえに本戦で白旗2本・青旗1本(主審・副主審は引き分けを支持)、延長で白4-青1という接戦に。

2回戦 〇川下義人vs漆館宗太×

川下(白)が左フックで1つめ、右ストレートで2つめ、パンチ連打で3つめの効果を奪い、完勝。

1回戦  〇渡部秀一vsキム・ヒギュ×

この試合も、本大会のハイライトのひとつ。独特の絞め技・関節技を駆使する渡部(青)に対し、キムは韓国MMA界では名の知られたファイターであり、大道塾韓国支部に所属する。本戦が青旗2本・白旗1本(主審・副主審は引き分けを支持)で迎えた延長、1回目の寝技の攻防でキムが腕十字を極めかけるが、2回目の寝技の攻防では、逆に渡部が腕十字を極め、タップアウト。シーソーゲームを制した。

1回戦 〇辻野浩平vs五十嵐健史×

黄帯ながら、関東地区予選での猪突猛進のアグレッシブファイトが評価され、地区推薦によって出場権を得た〝高尾の野人〟五十嵐(青)。そのパワーも、世界戦士・辻野には通じず、ニーインベリーからのキメ突きで2度の効果を奪われ、しゅんとした。

1回戦 〇加藤和徳vs松永卓也×

加藤(青)がパンチ連打で4つ、膝蹴りの連打で1つの効果、さらに右ストレートで有効を奪い、完勝。

1回戦 〇内田淳一vs齋藤洋太郎×

内田(白)が背負い投げからのキメ突きで1つめ、マウントパンチで2つめの効果を奪取。

1回戦 〇小芝裕也vs近田充×

今春の階級別全日本-230クラス準優勝の近田(青)は、本戦2-1とリードするも、延長では小芝の激しいステップワークにペースを乱され、5-0で敗退。

■女子

決勝 ○大谷美結vs東由美子×

女子空道界不動のエースとなりつつある大谷(白)が、東孝・国際&全日本空道連盟理事長の娘である東由美子からバックブローで1つめ、投げからのキメ突きで2つめの効果を奪い、完勝。しかしながら、東海大柔道部時代には全日本学生団体戦3位のメンバーであり、リオ五輪金メダリスト田知本遥の練習パートナーだったという大谷に腕十字の体勢に入られながら、両腕のクラッチを切らずに凌ぎ切った東のフィジカル&メンタルも評価したい。国際&全日本空道連盟という組織にとっても、将来、事務方の要職を担うであろう東が競技において実績をあげたことは、連盟が国内外現場サイドの信頼を得て運営を円滑に進めるための大きな力添えとなるに違いない。実技経験のない創始者の子息が跡継ぎとなった武道団体において、運営サイドと競技キャリア組との間に軋轢が生じるケースは過去、多く見受けられる。

決勝進出者決定リーグ戦(前半リーグ) ○大倉萌vs東由美子×

女子屈指のテクニシャン、大倉(白)がヒット&アウェイで東につけ入る隙を与えず、本戦5-0判定勝利。

決勝進出者決定リーグ戦(前半リーグ)○東由美子vs西川麻里恵×

本戦で旗が割れ、迎えた延長、掴みからの膝の連打を浴び、スタミナの切れかけた西川(白)に対し、東は投げからマウントパンチ→十字絞めへ。生涯初となる一本勝ちを収めた。

決勝進出者決定リーグ戦(前半リーグ)〇西川麻里恵vs大倉萌×

今大会を盛りあげた隠れた立役者は西川(青)であろう。優勝候補であった大倉に対し、気迫のこもった攻めをみせ、パンチで効果を奪取。本戦4-0で勝利を得ると雄叫びをあげた。この勝利により、リーグ内、東・大倉・西川がともに1勝1敗となり、唯一人勝利が一本勝ちであった東が、規定により決勝進出を決めたのだ。

決勝進出者決定リーグ戦(後半リーグ)〇大谷美結vs今野杏夏×

過去、今野(青)に対し、初対戦では敗れているものの、その後2連勝している大谷が、背負投からマウントパンチ、さらに腕十字と流れるように決め、一本勝ち。これまでの対戦はすべて判定での決着だっただけに、両者の間には差が開いたかたちか。今野の猛追を望みたい。

■その他のトピック

一般&ジュニア全日本選手権入賞者

全日本空道連盟・東孝理事長、高橋英明副理事長とともに

演武

男子トーナメント2回戦が終わったところで、高段者により空道約束組手が披露された。様々な攻撃に対し、ディフェンスから反撃までの方法を〝二人組での型〟形式で定めるもの。ここ数年、試行錯誤を重ねており、まもなくまとまったかたちが発表される見込みだ。

バックステージには、ジョイントマットを持ち込み、独自のアップスペースを設営する支部も。素晴らしい万全の準備……しかし、来年以降「ウチも、ウチも…」と各支部がスペースを陣取ろうとした場合、トラブルが生じないか、やや心配だったりして。

アンチドーピング啓蒙活動

会場内の一角で、JADA(日本アンチドーピング機構)のスタッフがブースを設け、観客を対象に〝ドーピング行為とはなにか? なぜいけないのか〟といったことを説く啓蒙活動を展開。100名弱がブースを訪れた。前回世界選手権代表のキーナン・マイク選手(写真左端)も、ゲストとして参加。

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