「UFCなどの“プロの総合格闘技”を“ガチの極限”として評価する見方と、そのあまりな“無機質な戦い”に生臭さ、粗暴さを感じ、辟易して距離を置き始まった層がいることも確かである。そういう意味で闘いに人生に繋がるロマンや美を求める層からの評価が定着しつつあるのが現在の“空道”だ。
30数年の試行錯誤を経て熟成され、技術の多様さはもとより、武士道や侍に繋がる着衣の美しさや、多様な戦士が繰り広げる戦いに、人生の深み、人世の広がりをも感じさせようになったのが“総合武道・空道”だ。
その空道の生みの母“大道塾”を、創刊号からメモリアル300号まで、時に温かく、時に厳しい逆風となって「21世紀の武道・空道」に至る道程を紹介し続けてくれた「ゴング格闘技」。
その299号では、「ゴン格」二代目編集長、熊久保英幸(くまくぼひでゆき)氏が「大道塾とグレーシー柔術」と題して、23年前の対グレーシー柔術での敗戦を振り返りつつ、東孝塾長から「空道・大道塾の(苦難の対外試合) 歴史」を聞き出してくれている。
http://www.daidojuku.com/home/news/2017/news_1703.html#n16189(「ホイス戦での敗退以来、23年目にして加藤久輝がハレックグレイシーに勝ったから‥‥」というインタビューだった。しかし、私にとっては23年どころか、大道塾設立以来の36年間は、マスコミや武道・格闘技ファン、弟子も含めた「新しいものへの 抵抗という“日本文化”との戦い」だった…。)
設立(1981年)当時は「初めて顔面への打撃を取り入れた空手(当時は“格闘空手”)」として、また、数年後(1987年)は「(当時、最強と謳われた)ムエタイに挑戦した空手」として、そして、1994年には、新しく台頭してきた「(最強の)グレーシー柔術に敗れた大道塾」として、その矢面に立って東塾長の心の葛藤を振り返りつつ…。まさに「外部から見た大道塾の歴史」だ。まだ読んでない人は、大会当日に会場で購入できるから是非読んでおこう!!
※全て“選手”は略
都内の多くの体育館が、オリンピックへ向けての改修工事により、夏以降は使用不可能となるために、今大会は、例年とは逆に「2017年 北斗旗全日本 空道 体力別選手権大会」及び「2017全日本 空道 シニア選抜選手権大会」が、国立代々木競技場 第2体育館にて開催されます。
なお、今大会より、従来の-230クラス・・・-260クラスや、260プラス、と言ったクラス(階級)名は、身体指数が229.999や、259.999等と冗長になるので、230(以下)クラス(=指数が230まで可)、260(以下)クラス=(指数が260まで可)・・・260超クラスと、呼称が変えられました。
さて、今までの世界大会と同じように、来年11月の「第5回世界空道選手権大会(以下5KWCと表記=5th World Kudo Championshipsの略称)」は、直前の3大会(※1)の内、最低2大会への出場と、上位2大会での成績上位者で出場者が決定します。
※1 今大会「2017体力別」、今秋の「第3回アジア選手権大会(※2)」、来春の「2018体力別」
※2 アジア大会は、海外勢の参加状況にもよりますが、基本的に、今大会の各階級上位4名が対象になります。
昨年、16無差別大会で優勝・最優秀に輝いた野村幸汰(札幌西)、16体力別、260超で準優勝した弱冠19歳の若武者、岩﨑大河(総本部寮生)、更には14、15と-260では抜群の安定感を見せ二連覇し、今回1階級上げて260超クラス」に挑戦する加藤和徳(吉祥寺)がいます
互いが得意としている組技(投げ・寝技) vs打撃に加えて、16無差別以来、野村が打撃を、岩崎が組技をどれだけ伸ばしたか?が焦点になるでしょう。とは言っても、直接打撃で自分より大きな選手との対戦には慣れていて、総合的に3人中一番完成度の高い加藤、そのセンスの良さで、20~30になる体力差を覆す可能性も大いにあります。世界大会への戦略は夫々です。他のクラスでも、加藤以外にも、何人かの“越境”挑戦者がいますが、来年の世界大会まで予選があと2回あることを考えた場合、今回、上の階級で戦っておくことは意味のあることだと思います。(体力別と無差別の捉え方については別稿で)
一方、10から13年まで、春の260超と秋の無差別を独占し、15の260超優勝以来、2年ぶりに昨年の無差別に出場した加藤久輝(安城。3回戦目でケガ棄権)。今回も残念ながら、参加することができません。「第4回世界大会」、優勝候補でありながら初戦敗退した雪辱の為のプロ参戦で、順調に成果を上げているとことは我々も喜びとするところですが、ラウンド制と、本戦、延長共に3分の短期決戦では戦い方も同じではありません。「第5回世界大会(5WKC)で日本に重量級の優勝を!」という志が変わらないでいるなら、そろそろ本格的に取り組む必要があるでしょう。あと残りの2大会での活躍を期待したいところです。
清水亮汰(16年無差別優勝、17年同準優勝/総本部職員)は、一昨年15無差別で、体力差60超の野村幸汰を下して優勝しており、無差別とは言っても、日本人相手ならそれほど体力面での不安は感じないので、ましてや「同じ階級なら・・・」と思っていたのかもしれません。しかし、今年2月の「第2回空道ワールドカップ=2nd Kudo World Cup(インド)/以後、2KWCと表記」では、前回の「第4回世界大会」で下して準優勝した相手だったものの、年齢と共に体力の勝って来たケレサノフ(ロシアチャンピオン)に、今度は1本負けを喫してしまいました。
世界大会となれば同じような階級(体力指数)でも、(経済的に)炭水化物中心の食生活にならざるを得ない日本人に比べ、海外勢は肉食中心の生活から来るパワーにより、一発の強さや、動きも敏捷な選手が多いのは周知の所です。改めて、世界戦での体力の必要性に目覚めたか、最近では体力トレーニングの時間も増えたようで、今回は1階級あげて260以下クラスに出場します。初戦から、自分の元のクラス(250)の1階級上の相手と戦う今大会を通じて、手ごたえを感じて欲しいものです。
その260クラスには、14と16には-260で準優勝しつつ、10,12、13と無差別でもベスト8入賞の、日本のパワーファイター、渡部 秀一(岸和田)や、同じく、元は-260ながら、16年3位、16年4位と無差別で続けて4強入りした押木英慶(新潟)。「第4回世界大会」で新人ながらも、-270クラスでいきなり第3位に入賞した辻野 浩平(岸和田)等々がぶつかります。この階級は例年、選手層が薄く、物足りなさも感じる時もありましたが。今回は毎回、死闘を繰り広げる-230や,-240にも勝るとも劣らない、激戦が繰り広げられるでしょう。
昨年、無差別大会第7位、になった山崎順也(総本部寮生)も1階級あげ250クラスに出場し、関東予選では、15年の-250で優勝の加藤智亮(誠真会館)を下し、念願の関東1位になった。初めから実績を持って寮生になった清水、岩崎達に挟まれ一時は迷いもあったようだが、腐ることなく一番の練習量で遂に関東を代表する選手にまでなった。世界大会を考えると、技の軽さに物足りなさを感じるが、一層の努力で安定感を身に着けて欲しいものだ。その山崎に立ちはだかるのは、08年-250のベスト4で、重い突き蹴りを持つベテランJASON ANGOVE(ジェイソン・アンゴ-ブ)(高尾)か、清水や山崎と同じように、ジュニア出身の北海道の星になるのか安富 北斗(札幌南)。又、一敗地にまみれたとは言え、安定した力を持っている加藤はこのままでは済まさない!と言う所だろう。更にはサラリーマン空道家の典型みたいなもので、名古屋、東京、九州、大阪と転勤し今は東北本部にいる、06/‐250準優勝のベテラン、服部 宏明(東北)や、12、13で-240準優勝、「第4回世界大会」(-240、第3位)に続き、昨年2年ぶりに復帰し密かに「第5回世界大会」も視野に入れているのか?笹沢 一有(大分)※ しばらく戦線を離れていたこれらベテランが、どう闘いを作るか、それに若手がどう対抗するのかも、興味の的だ。
※:この笹沢も、同じく東京、名古屋、大阪、奈良と転勤で、今は大分にいる。彼ら二人だけに限らないが、日本には選手に専念できていれば、これまでの「世界大会」でも十分以活躍できたであろう選手が多くいる。特に大学で空道を始めた選手などは、毎年毎年有望な人材が入門し成長しても、3∼4年もすると、社会に“巣立って行く”。「社会体育」を標榜する以上、彼らの社会人としての活躍も勿論、大きな喜びではあるが、1日5,5時間の練習量で日本選手を翻弄する旧ロシア圏の選手を見ると、歯痒くてならない。
2KWC後のレポで「自分が格闘技を始めた当初の目標である北斗旗優勝と打倒ロシアができてない」と30歳直前に気付き、「残り少ない選手生活、仕事の合間を見つけては常に体力強化や色々な格闘技にも積極的に参加し、強くなっている実感がある」と言うのは遅咲きだが、16年優勝の田中洋輔(御茶ノ水)。対するは、パンチとキックが流れるように繋がる、15優勝、16準優勝、「第1回アジアカップ= 1st Asia Kudo Cup(以下1st KACと表記)」(モンゴル)優勝の川下義人。2KWC には田中が選ばれたことで参加はできなかったので、イラン人やカザフスタンと言った体力差のある外国選手と戦ったのは15年の「1st KAC」以降はない。大会後に「もっとフィジカルを強化します」と言っていたが、来年の5KWCを前にパワーアップは十分だろうか??そういう意味でも今秋、11月の「第3回アジア空道選手権=3rd Asia Kudo Championships (以後、3rd AKCと表記)」出場は絶対に譲れないところだ。更には、通常寮生・内弟子になる人間は何らかの運動経験を持っているものだが、それまで特に集中した運動をしてはいないが、「中途半端な自分を鍛えるつもり」で、09年に内弟子となった内田。以来コツコツと練習を重ねて遂に、12年優勝、14準優勝と、いぶし銀の実力者に成長した内田淳一(総本部)。“中央”何ものぞ!というような、歴史的に“立て籠もる”というか、“安住”とでも言うか、“独立独歩”的気風も感じられる“九州”という地で、大学柔道部仕込みの叩きつけるような強烈な投げ技を持ち、常に全日本を狙ってきた15準優勝の巻 礼二などなど多士済々だ。この階級は上位入賞の常連が2回戦から激突する。今回もこの階級はこの4人を中心に回ると思うが、そこに、関東予選1位の神代 雄太(吉祥寺)と2位(15年1位)の服部 晶洸(横浜北)がどう絡むか?共に、全日本大会での活躍が期待できる選手だが、もう一つ欲がないように見える。先行する「上位入賞常連者を食ってやる!」というような、より一層、意欲的な戦いを仕掛けて貰いたいものだ。
変化自在な動きで、15と16で-230を制し、一昨年の16無差別では決勝まで進んだ目黒雄太(長岡)。「1st KAC」優勝の経験があるにもかかわらず、今回の「2KWC」では、距離を取り、技の応酬をしたがる国内選手と、前進での殴り合い蹴り合いを基本とする、海外勢との差を忘れたか、日本的に相手の回し蹴りをスェーして、次は自分が蹴り返そうとしたなら、相手はそのまま続いて後ろ回しを出してきてカウンターを取られるとか、得意のミドルを相手に抱えられても、日本では膝下を内腿にフックして体重を掛ければ、堪えきったり、外したりできるだが、そのまま抱え挙げられ、頭から投げ落とされたり(※)で、準決勝で敗退した。試合後のレポで「課題の残る試合になりました」と言っていたが、今大会では元々の自分の階級である230以下クラスでの3度目の優勝を狙い、世界大会への再出発とするのか。(※これは大事には至らなかったが違反行為で、一発「反則」にもできたはずだが・・・・。
対するは、同じくトリッキーな戦いをするが、パワーもあり、第1回2回と世界大会を2連覇したロシアのレジェンド、コリャン・エドガーを相手に「第4回世界大会」では延長まで持ち込んだ(2-2)が、主審の1で惜敗し第3位だった谷井翔太。大学卒業後、「5KWC」を狙うためか、高校教師の誘いを断って消防庁に入り体力倍増の2年を経て、関東予選では余裕の1位。両者の激突が楽しみだ。
しかし、今後の成長が楽しみな、“20歳の日進若手3人衆(※1)”の一人、高垣 友輝もいる。目が離せない試合が続くだろう。更に、この階級には54歳でなお、驚異のKOパンチャーであり続ける上野 正(総本部)や、13年、16年準優勝の近田 充(多賀城) 、15無で特別賞をもらった54歳、渡辺慎二(浦和)。16の-230で準優勝の44歳、田中正明(筑紫野)(※2)もいて、話題も豊富だ。
※1 川下 義人、伊藤 宗志。
※2 九産大ボクシング部出身で、全日本社会人ボクシング選手権3位
女子は技スピード、多様さ、的確さでは女子随一の、215クラス初優勝を狙う大倉 萌。215超クラスではインドムンバイで行われた「第2回ワールドカップ/2WKC」でロシア、ウクライナという強豪をねじ伏せ、女子の国際試合においては、日本人として初の優勝を成し遂げ、且つ、日本チームに唯一の金メダルをもたらした大谷 美結(札幌西)※。それに、15春と、同年の「1st KAC」優勝の今野 京夏、12年春・秋優勝の吉倉 千秋らがひしめく。16無差別準優勝の東 由美子がどこまで絡むか。いずれにしろ、最近では“女子絶対王者”の呼び声も高い大谷の独走を、今回も許すのか?興味は尽きない
※男子無差別優勝者、野村幸汰とともに名門東海大学柔道部優勝チームのメンバー。
○○空道選手権大会は○○ Kudo Championships = ○○KC <=○○がKCの先
例
「第5回世界空道選手権大会=5th World KUDO Championships (表記は5WKC)
「第3回アジア空道選手権=3rd Asia Kudo Championships (表記は3AKC)
空道○○カップはKudo ○○ Cup =K○○C <=○○がKとCの間 ( Kが先)
例
「第2回空道ワールドカップ=2nd Kudo World Cup (表記は2KWC)
「第1回空道アジアカップ= 1st Asia Kudo Cup (表記は1KAC)