2017北斗旗全日本空道体力別選手権大会/2017全日本空道シニア選抜選手権大会

2017 全日本空道体力別選手権リポート

文 全日本空道連盟広報部 写真 牧野壮樹

[総評]

24、25、30、21、19。 男子各階級優勝者の年齢である。平均で23.8歳。空道界に、世代交代の波が

押し寄せていることをひしひしと感じる。-230では菊地逸斗(18)、荒井壱成(19)、高垣友輝(20)、-240では寺阪翼(20)、伊東宗志(20)、-250では安富 北斗(20)、佐藤迅(20)…と、20 歳以下で、決勝には進出せずとも高いパフォーマ ンスをみせる選手も多かった。

2018 年秋開催世界選手権の日本代表権を巡って、2017 秋の(アジア大会国内予 選→)アジア大会、2018 春の全日本体力別選手権では、彼ら新世代と、ベテラン世 代が、今回以上に激しい闘いを繰り広げることになるだろう。「冗談じゃない! まだ まだおまえたちの番じゃない」と 30 代、40 代…の選手たちが意地をみせるか、それ ともジュニアクラス出身勢が今回以上の急激な成長をみせ、ベテラン勢をなぎ倒し ていくのか、いずれにせよ、ますます大会が盛り上がることは必至だ。空道最高!

[試合ダイジェスト]

■男子-230

V3 を果たした目黒雄太(大道塾長岡支部)だが、実は、2 回戦で、延長戦において 金的蹴りで反則をとられ、そのままタイムアップとなり、規定により敗戦を喫していた。 その相手、近田充が以降の試合を棄権したため、代わりに、相手選手に効果ポイントが与えられた状態で試合がスタートするというペナルティーを背負ったかたちで準決勝進出を果たしたのだが、準決は襟絞めで、決勝は右ハイキックで一本勝ち。マ イナス 1 ポイントのハンデもお構いなし、判定に持ち込ませない、その決定力は驚嘆 に値する。1 年前、2016 春の全日本体力別決勝でも、半年前の 2017 年秋の全日本無差別 3 回戦でも相手を失神させているので、3 大会連続の KO。前回世界選手権 準決勝で中村知大の襟絞めに屈して以来、国内の同階級のトーナメントでは頂点に 君臨し続けている目黒だが、このまま次回世界選手権まで突っ走るのか? それと も、菊地ら新世代が追い越しを掛けるか? 世界王者・中村が復帰し、返り討ちにす るのか? まだまだ分からない。



決勝。谷井期太が左ストレートで先制するが、目黒はその後、左に合わせ右ハイを一閃! 長時

間、意識を喪失するほどのダメージを与えた。


準決勝、菊地逸斗にテイクダウンを奪われながら、襟絞めで一本を奪った目黒。

準決勝、谷井(白)vs 荒井壱成は、延長でも旗の割れる接戦。投げの打ち合いのなか、後転系の
動きでトップポジションをキープした谷井に、一日の長があった

2 回戦、18 歳の菊地が、44 歳で 2015 年のファイナリスト、大学~社会人ボクシング出身の田

中正明にパンチで打ち勝つ。投げからのキメ突き、右ストレート、膝蹴りでそれぞれ効果ポイン トを奪い、完勝

2 回戦、延長で近田からマウントパンチによる効果1を奪った目黒(白)だが、一方で反則(金的蹴 り)を犯し、近田にポイント1が入っていたため、規定により近田の勝利となった。近田は昨年の決 勝で目黒に右ハイ→右ストレートによる一本負けを喫しているが、再戦となるこの試合、臆するこ となく闘い抜き、本戦では 1 本は旗を得た。負傷により準決勝以降を闘うことはならなかっただけ に、表彰されぬ者の中にこのような強者のいることを特記しておきたい。


2回戦、荒井(青)が阿部公太郎(大道塾長岡支部)を本戦旗判定5-0で下す

2 回戦、2015無差別全日本ベスト8の小芝裕也と谷井の闘いは、本戦引き分け。延長でグラウ

ンドでの支配局面の多かった谷井が旗判定5-0勝利

1 回戦、出場最年長 54 歳の渡辺慎二は、前手を開いて伸ばした独特の構えで、田中の踏み込み を封じる。僅かな打ち合いのなかでのヒット数で劣ったために敗戦を喫したものの、相変わらずの 存在感を放っていた。

1 回戦、目黒が平山雄祐を豪快に投げる。頭部から着地させる投げに対して反則が宣告されるケ
ースもみられた今大会だが、このように立位で、きれいに相手を背中から落としていれば、当然、
よき評価の対象となる。

1 回戦。荒井vs高垣。19 歳vs20 歳、ジュニアクラス出身のヤング対決は、数度投げを決め、
右ア
ッパーで効果1を奪った荒井が勝利

1 回戦、小芝は久保浩平に腕十字で一本勝ち

1 回戦、大橋邦章に蹴り足をキャッチされた谷井は、飛びついて引き込み、三角絞めで一本勝ち

■男子-240

20 歳で大道塾帯広支部に入門、2 年を経て吉祥寺支部に空道留学し、着実に力を つけていた神代雄太が、25 歳となった今年、遂に頂点に上り詰めた。過去 2 2 敗の 川下義人を延長旗判定5-0で下したことで自信を持ったという神代は、続く準決勝 では過去 1 1 敗の内田淳一から効果1(膝を支点に相手を振って転倒させてからの キメ突き)を奪い、決勝では初対戦の田中洋輔の密着戦法を膝蹴り・肘打ちで打ち破 り、延長旗判定5-0。歴代の王者 3 名を連破しての戴冠だけに、試合後に今後の目 標について「世界大会優勝です。もちろんアジアも」と言い切るのも頷ける。




決勝。田中のアキレス腫固めであわやの場面もあったが、離れては華麗な蹴り技、組んでは
首相撲からの膝・肘の連繋で、神代がイニシアチブを握った。

準決勝、組んでの膝蹴り→崩し→キメ突きで効果ポイントを挙げ、本戦で神代が内田を下した。

準決勝、得意の密着系組みつきからグラウンドへ持ち込んだ田中が、服部晶洸の正統派のス
タイルを潰し、3 分間をドミネイト。旗判定 5-0 で勝利。

2 回戦、服部vs巻礼史は、膝着きの一本背負投で、服部が立位から引き込んで相手の頭部をマ

ットに落としながらの絞め(いわゆるギロチンチョーク)で、それぞれ反則を宣告される荒れた試合 に。右フックで効果ポイントを得ていた巻に一度は勝利が告げられたが、反則によるマイナスポイントが巻の方が大きかったゆえに「同点の場合ビッグポイントを獲得している方が勝利となる」とい う原則に基づき、判定結果が覆り、服部の勝利となった。2006 年、2015 年に全日本準優勝を果た しながら、これまで世界選手権出場をギリギリで逃し、次回世界選手権に悲願を懸けている巻に とっては、悔しい結果だったであろう。頸椎や頭部の障害予防のための「投げ技の禁止行為」に 関しては、反則の認定基準に関して試行錯誤が繰り返されている部分があるので、この試合の 判定を検証することは、今後に向け、よき資料となるだろう。相手の頭部から着地させる投げ技に かんしては「身体の回転の勢いによって胴体部分が順次着地していく場合は可とする」という原則
があるので、巻の投げがそれに該当しなかったのか、など、ビデオで振り返ることが望まれる。

2 回戦、田中vs伊東宗志。重い右ストレートで勝ち上がってきた 20 歳・伊東に対し、逆に田中 が右ストレートで効果を奪い、本戦旗判定5-0で田中が勝利。

2 回戦、内田vs伊東駿は、本戦で旗の割れる接戦の末、延長、ニーインベリーからのキメ突きで効果を奪った内田(青)が薄氷の勝利。

2回戦、神代vs川下義人。カウンターの左フックを度々ヒットさせ、組んでは膝蹴りを腹に食い
込ませた神代が、本戦旗判定2-1、延長旗判定5-0で勝利。

1 回戦、20 歳の寺阪翼(青)は、服部に敗れたとはいえ、パンチのスピードに優れ、打ち合いで 優位に立つ場面もみせた。

1 回戦。田中vs越後暢介。遠間から飛び込んでの打撃→密着してテイクダウンの得意パターンで、田中が圧倒した。

■男子-250

2015 年に優勝し、2016 年は準優勝した(決勝の相手は清水亮汰)加藤智亮が、再 び王座に返り咲いた。決勝では、関東地区予選決勝で敗れた相手である山崎順也か ら左フックでのダウン(有効)を奪い、完勝。過去、大道塾所属以外の日本人選手が世界選手権出場権を得たことがないだけに、日本空手道誠真会館所属の加藤が2018 世界選手権に出場した場合、注目を集めることになるが、本人は「そういうことは 考えていない。ただ日本の武道が一番だというのをみせたいだけです」と 意識が高い。

一方、これまで、1 歳年上の清水亮汰、1 歳年下の岩﨑大河と共に総本部寮生とし て研鑽を重ねつつ、一人だけ実績を残せずにきた山崎にとっては、今回の準優勝は ホッとした気持ちと悔しさの入り混じったものとなったであろう。「あせりは感じないよう にしています」との言葉の一方で「次こそ優勝したい」「海外勢にフィジカル負けないよ うに身体をつくってアジア大会につなげたい」と欲求の高まりをのぞかせる。世界大会 は? との問いにも「優勝したいです」と即答した。


決勝。パンチの連打で山崎に旗 2 本が挙がれば、右ハイで加藤に旗が2 本挙がる。ギリギりで

効果ポイントに達しないものの、鋭い技の応酬で互いに一歩も撮らず、延長へ。終盤に、加藤 の左フックで山崎が腰を落とし、有効。勝敗が決した。関東地区予選決勝では山崎が投げを決めて判定勝利を得ていたが、この日の闘いは打撃戦に終始。加藤は『絶対に倒してリペンジしようと思っていた」と、山崎は「予選では(加藤は)前に出てきたが、今回は距離を保ってきたの で、テンカオへの警戒もあり、組むことが出来なかった」と、振り返る。

準決勝。山崎vsジェイソン・アンゴープ(自)。本戦旗判定 5 0 で山崎が勝利。

準決勝。加藤vs笹沢一有(青)。笹沢の投げからのアキレス腱固めを凌いだ加藤は逆に小外刈でテイクダウンを奪った。加藤は空手&キックボクシングの競技歴を経て、空道に取り組む ようになった選手だが、柔道出身の笹沢と渡り合うだけの、組み技への対応力を身につけてい る。本戦旗判定 30、延長旗判定 50 で勝利。

2 回戦。山崎vs安富北斗(青)。両者ともに 20 歳で、山崎は大道塾帯広支部で空道をはじめキ ャリア 13 年、安富は札幌南支部所属でキャリア 9 年。両者とも、ジュニア時代に全日本優勝の 実績を持ち、直接対決の経験もある。そんなライバル同士の対戦は、本戦で旗が 2 本ずつ挙 がる拮抗戦の末、延長で山崎が左ストレート、右ストレートでそれぞれ効果を奪い、まずは決 着。双方、より強くなっての再戦に期待したい。

2 回戦。笹沢 v 政野哲也。1 回戦で、金日柱の右ローに合わせ右ストレートを決め、有効を奪った政野に対し、笹沢はニーインベリーからのキメ突きで効果を奪い、本戦旗判定 50 勝利。

1 回戦。安富vs長嶋竜司。安富が投げからキメ突きで効果2つを奪う。

1 回戦。加藤vs服部憲明。2006 年全日本準優勝以来はや 10 年、どんな強豪とでも打ち合いを展

開してきた服部だが、今年も、王者となる加藤と打ち合い、本戦旗判定 5 0 で敗れ、悲願の優勝への道は
閉ざされた。一方でクローズガードからの腕十字を極めかける場面もみせ、大会後、加藤に「1 回戦が一番、やりづらかった」と言わしめた。

■男子-260

初戦7ポイント(効果 5 つ、有効1つ)。2 試合目 3 ポイント(効果 3 つ)。準決勝こそ、 ポイントのなかったものの、決勝では 6 ポイント(効果 2 つ、技あり1つ)。今回の清水 亮汰の得点である。階級を上げての出場で、4 試合で 16 ポイント……1 試合平均 4 ポイントを挙げて優勝するとは、この男、まだまだ底が知れない。過去、低年齢での 全日本複数階級優勝記録でいえば、武山卓己が 18 歳で-250 クラス、19 歳で+250 クラスを制した(1993)記録を持つが、清水は 20 歳で無差別優勝&-250 クラス優勝、21 歳となった今回、-260 クラス優勝と、3 階級を制してしまった。今後、どんな記録 を打ち立てるのだろうか。

今回の清水の試合内容において、特筆すべきは、投げ技の決まり具合。蹴り技の 比重が高いジュニアルールでの闘いを積んできただけに、これまでは蹴り技の巧み さが目立っていたが、今大会では、柔道出身の低重心の体格の相手をも、ポンポン と豪快に投げ捨てていた。空道以外に、武道・格闘技のキャリアがまったくないにも かかわらず、このようなことを可能にするのは、打撃によって相手の重心を崩す技量 の高さと、その直後に相応しい方向への投げに転じるタイミングの良さだと思われる。 柔道やレスリング、相撲のように、上肢の操作と体さばきによって相手を崩すのでな く、打撃によって相手を崩すからこそ、組み技競技のエキスパートですら、投げを食 らってしまう…そんな空道ならではの現象を体現しているのだ。年齢的には、まだ早 いようにも感じてしまうが、実際のところ、すでに“ミスター空道”の称号が相応しい。 一方で、国際大会に関していえば、前回のアジア大会ではモンゴル人選手にダウ ンを取られ、今年のワールドカップでは、以前に勝っているロシア人選手(イゴール・ ペルミン)に一本負けするなど、どうも分が悪い。本来の-250 クラスで出場するという 今秋のアジア大会、来年の世界選手権では、そんな過去を払拭できるか?






決勝、清水 vs 伊藤新太。豪快な投げからのキメ突きで効果1つめ、頭突きで効果2つめ、相手
に転ばされた後の立ち上がり際の右ストレートで技あり。離れても組んでも寝ても、どこからで もポイントを得られる盤石ぶりをみせつけ、清水が延長に持ち込ませず。

準決勝、清水vs押木英慶。押木が右上段前蹴りや右ストレートで清水を捕らえる。清水が唯一、ポイントを奪えなかった鼠合。本戦は清水に2本、押木に1本、旗の揚がる接戦となる。延長終 了間際、大腰で押木を宙に舞わし、判定 5 0 を手に入れた清水は、大会後「押木先輩との鼠合が一番厳しかったです。リズムも違うし、かわしづらいタイミングで技がくる。思ったより大きくみえて、力も強い。負けたかなと思いました」と振り返る。


前半ブロックの事実上の準決勝となった伊藤 vs 辻野浩平。この階級、ランキング的にいえば、 伊藤は、清水・辻野・押木・渡部に次ぐ 5 番手に位置する存在であったと思われるが、この試合、 ニーインベリーからのキメ突きで効果を得て、本戦旗判定 50。下馬評を覆す決勝進出を手に 入れた。前回世界大会の日本代表最終選考試合で敗れ、代表を逃してから、無念を晴らすべ く積んできた稽古の成果といえるだろう。

リーグ戦、清水 vs 藤田斉(白)。清水の初戦、柔道出身の藤田に対し、投げてのキメ突きで1つ
めの効果を奪うや、左中段膝蹴りで2つめの効果、左上段膝蹴りで3つめの効果、ニーインベ リーからのキメ突きで4つめの効果、跳び後ろ蹴りで有効、左上段回し蹴りの連打で5つめの 効果。独壇場の強さをみせつけた。ちなみに、藤田は 47 歳で、清水の父親は 43 歳である。

リーグ戦、清水vs高橋辰佳(自)。びっくりするほどの放物線を描き、高橋の身体が宙を舞った。

リーグ戦、高橋 vs 渡部秀一(白)。前回世界選手権代表であり、同階級2連覇を達成したアダム・
カリエフにもっとも肉薄した日本人といわれている渡部だが、今回は、立った状態で襟を持ち、引 き込んで極める、得意の絞め技が不発に終わり、この高橋戦は本戦旗判定5‐0で勝つも、押木 には延長旗判定5‐0で敗れ、予選リーグで姿を消した。

リーグ戦、伊藤 vs 麦谷亮介(青)。延長、右ストレートで効果を奪った伊藤の勝利。この試合、場外際の伊藤の投げで麦谷が壇上からフロアに落下したが、このようなことを繰り返していては、い ずれ大事故が起きても不思議はないように感じた。現状の選手係(落下防止の抑え役)の人員配 備では足りないことは明らかなので、新たな防止策を講じるべきであろう。

リーグ戦、押木 vs 藤田(青)。組んでの膝連打で押木が効果2つを奪い、本戦勝利。

リーグ戦、辻野 vs 麦谷(青)。ニーインベリーからのキメ突きで1つめ、マウントパンチで2つめの
効果を奪い、辻野が完勝。

■男子 260+

決勝、野村幸汰vs岩﨑大河は、一昨年、昨年の決勝と同じ顔合わせ。一昨年は 岩﨑が負傷棄権したために、野村が不戦勝、昨年は岩﨑がアウトボクシングに徹し、 常に前に出続けた野村が再延長判定勝利。そして、今年は岩﨑が打ち合いに挑み、 再延長判定勝利。岩﨑が追いつき、(ほんの尐し)追い越したことで、加藤久輝が不 在となってから競い合うライバルなき状況を歩んできた野村も、今後はモチベーショ ンを高められるだろう。

試合は、岩﨑がパンチで先制攻撃を掛け、このオープニングヒットで右手中手骨 を骨折するも、その後は右のパンチをおとりに用いつつ、左フック、左ボディアッパー、 右ロー、右ミドルといった攻撃を次々とヒットさせる。野村が掴むや、密着して腰の回 転を封じ、谷落気味に後方に引き込んでは、マウントを奪い、マウントパンチを放つ 場面までみせた。岩﨑の密着に対し、ならばと野村が巻き込んで袈裟固めからの腕 固めを狙えば、頭を抜いてバックを奪取。

本戦でポイントなく自動延長となると、岩﨑は、飛び込んで打撃を放ってはボディ ワークで野村の反撃をかわす見切りの良さをみせる。一方で、勝利を目前に引き寄 せたことで辛抱できなくなったのか、終盤、逃げ切りを狙うかのように場外逃避をして しまい、警告を受けてしまう。このあたりは、若さゆえの心の甘さだろうか。

延長旗判定3(岩﨑)-1(野村)で迎えた再延長、岩﨑が後ろ蹴りをレバーに決 めれば、野村は後ろ蹴りを蹴り返し、首相撲からの膝の連打で岩﨑の大きな体を宙 に浮かせる。再延長タイムアップ後の最終判定では、9 分間の総合評価ということで、 岩﨑に 5 本の旗が挙がったが、110 キロ超の体重を背負いながら、9 分間の闘いの 終盤でも、衰えぬ攻撃力をみせた、野村の体力・気力もまた、やはり称賛に価するだ ろう。

一方で、これまで、投げはもちろんのこと、投げ切ったポジションからの関節技の 極めの強さや、打撃の破壊力にかんしても、観る者を驚嘆させてきた野村の、これま ではみえなかった弱点が露呈したのも事実。試合後「打撃を打たれたときに、対応し て返すことはまだ不得手だな」「投げても、いいポジションが取れなかった場合は、そ こからの展開はつくれないんだな」「グラウンドで上になられる機会がないだけに、上 になられたときの対応技術が薄いんだな」といった指摘が多く聞かれた。ある意味、弱点が浮き彫りになったということは、野村にとって、むしろよいことだろう。本人も「撃は確かに、3 年やっていれば素人からプロのチャンピオンになる人もいるのに、ま だまだへたくそだと思います。でも、これからなので。今が結果じゃないですから。あと1 年半で、変わった姿をみせることに目標を絞っています。まだ、今はその途中です。

今までは質より量の練習をしてきたけど、今年からは量より質の練習をしてきまして、 その部分では、手ごたえはありました」と、悲観することなく、気を緩めることもなく、世 界選手権を見据えている。

この日、壇上で感涙した岩﨑は-270 クラスで、野村は+270 クラスで、今後の国 際大会を闘っていく見込み。世界選手権までの残り 2 シーズン、国内で鎬を削ること で互いの能力を高め、武道・格闘技の本分ともいえる重量クラス 2 階級同時の日本人による世界制覇を果たして欲しい。……欲しいというか、それこそが、この競技にお ける日本の威信を取り戻すためのノルマだといえるだろう。

 








決勝、岩﨑vs野村。岩﨑は投げられた際に、頭を相手の股から後方に潜らせ、ニーインベリーを取らせず。これにより野村は常勝パターンである、投げ→キメ突きによる効果の獲得が出来 なかった。ちなみに、前回世界選手権時は 125 キロあった野村の体重が、今回は 112 キロまで 減。打撃に適した体形になろうという努力の賜物だが、これにより、岩﨑との体力指数差が 19 となり、昨年までとは異なり、今回の試合では、組んでの打撃が全面的に OK となっていた。こ のことが、野村にとっては、かえってマイナスに働いたかもしれないが、どっちにしろ、世界選手 権では組んでの打撃 OK のルールで闘うことになるのだろうから、目先の勝利を得るよりも貴 重な経験を積んだということになろう。ちなみに、再延長では、岩﨑がダウンするとともに金的 蹴りを受けたことをアピールし、野村が警告を受けていたが「見えなかった」とアピールした副 審が複数いたのだから、このようなケース(決勝戦で、判断のつかない現象が起きた場合)で はビデオ判定のようなシステムが導入されてもよいのでは? と感じた。




リーグ戦、野村 vs 加藤和徳。-260クラスを 2014、2016 に制した加藤が階級アップ。武道本来の
かたちといえる階級無差別での強さに拘りをもっており、圏内大会では無差別制覇を目指し、国 際太会では引き続きー260 クラスで闘っていくという。野村の投げ→グラウンドを 2 園、失点なく凌
ぎ切り、テンカオや金的蹴り(体力指数差 20 以上 30 未満につき、金的蹴りあり、掴んだ状態での手技打撃禁止)を決め、本戦旗判定2-1でリードするが、延長戦終了まで残り 10 秒で力尽き、 投げ→ニーインベリーでのキメ突き→襟絞めで一本負け。「あと 10 キロ増やして、かつスタミナが 切れないフィジカルがないと、後半疲れてしまう。本戦の寝技 2 回凌いだ時点で体力がほぼなくな った。金的蹴りは入れても効かなかった…」と加藤。引き続きの武道ロマンの探求に期待したい。


リーグ戦、加藤 vs 五十嵐健司(青)。21 歳のパワーファイター・五十嵐は、加藤のテンカオにも たじろがず突進を繰り返すが、加藤が冷静にさばき続け、本戦旗判定 50

リーグ戦、野村 vs 五十嵐(青)。五十嵐は野村の投げにもたじろがず突進を繰り返すが、野村
はニーインベリーからのキメ突きで1つめ、パンチ連打で2つめ&3つめ、左ミドルで4つめの 効果を奪い、本戦勝利。

リーグ戦、岩﨑 vs 佐藤和浩(青)。試合開始早々、右ロー、右ミドルの猛攻で、岩﨑が一本勝
ち。

リーグ戦、岩﨑 vs 前田聡(青)。右ストレートで1つめ、マウントパンチで2つめの効果を奪い、
本戦で岩﨑が勝利。

■女子-215

ジュニアクラス時代から技術面での評価の高かった大倉萌が、一般部昇格3年目 で初優勝を遂げた。ただし、1試合は不戦勝、残る2試合は4‐1、5-0の旗判定勝利 という内容に、本人は「物足りない。自分の出したい技が全然出せなかった。もっと技 の精度を上げて、海外の選手と闘いたい」と満足せず。今後のさらなる成長に期待し たい。


リーグ戦、大倉萌 vs 小柳茉生。ジュニア時代、ともに輝かしい戦績を残し、一般部に昇格した両 者の対戦。ジュニア出身らしく上段の蹴り技にキレをみせる小柳に対し、パンチから組み技まで全 般的な展開で対応した大倉が、本戦旗判定5‐0で勝利。

■女子 215+

2015 秋から、2016 春・秋、そして今大会と、大谷美結が全日本 4 大会連続優勝。

一人旅を続けている。決勝では、得意の刈り技で吉倉千秋を倒す。後ろ技を警戒し た吉倉のセコンドから「前重心に!」と声が飛んだ直後、巴投からマウント、マウント パンチで効果を奪ってから腕十字……と、「空道の教科書」とでもいうべき展開で一本を奪い取った。力で投げるのでなく、仕掛けに対する相手のリアクションに応じるこ とで技を決めているだけに、ロシア、ウクライナなどのパワーファイターにも、大谷の 投げは決まるに違いない。一方で、打撃も、攻撃に関しては、順調に伸びている。残 る課題は、強く、速い打撃を受けた時の対応力。国内大会では、強く速い打撃を放 たれる機会がほとんどないだけに、その点をいかに磨くかで、史上初の日本人女子 世界チャンピオンとなれるかが、決まるだろう。






決勝戦。リーグ戦で東由美子から効果1(パンチ連打)を奪って、復活の狼煙をあげた、2012
年の全日本王者、吉倉だったが…。大谷は、あっさりと仕留めた。

リーグ戦。初回対戦時は勝利したものの、最近の大会では大谷に連敗し、突き放された感もあった今野杏夏だが、今回の対戦では、下がって誘いながらパンチを的確にヒットさせ、本戦旗 判定 4(大谷)-1(今野)と、1 票は得た。巻き返しの兆しがみえた。

■雑感



入賞者。 て撮影すると、さすがに個々の選手が豆粒な感じ。
獲得ポイント数等の計算によって割り出される最優秀勝利者には清水が選定され、北斗旗を授 与された。

作家の夢枕獏さんは「岩﨑君が野村君に勝ったことにびっくりした。ここはひとつ、ベテラン勢が頑

張って、若い者を止めて欲しい」と、空道……大道塾を見守り続けてきたマニアだからこその温か いコメント。一方、東孝・大道塾塾長(全日本空道連盟理事長)も「世界選手権に向け、よい感触」 と評価した。


今大会のファイナリスト 14 名のうち、6 名が北海道内の大道塾支部所属、もしくは出身者。なお、 各選手の獲得ポイントを所属道場(チーム)ごとに集計して、その多寡で決められる優秀道場賞と しては、大道塾総本部が1位、大道塾吉祥寺支部が 2 位、大道塾長岡支部、大道塾新潟支部、 大道塾岸和田支部の 3 チームが同率 3 位と、ランキングされた。

2017 全日本空道シニア選抜選手権大会 リポ

ート

文 全日本空道連盟広報部 写真 牧野壮樹

※画像はクリックすると拡大表示されます。

■決勝ダイジェスト


軽量級決勝。桐田淳利が延長、右ストレートで効果 1 を奪取し、佐藤嘉紘を下す。

軽中量級決勝。齋藤馨(青)vs 鈴木秀夫。グラウンドで激しいスイープしあいの末、延長戦で旗
が双方に 2 本ずつ挙がる。再延長でも4-1と評価の割れる熱戦で、斎藤が勝利した。

中量級決勝。大坂泰博が大腰などでテイクダウンを奪い、寝技で攻め、延長旗判定 5‐0。佐藤順
を下した。

軽重量級決勝。中村竜太郎は伝統空手スタイルの構えから、まさかのバックブロー。新出勝治を ダウンさせ、試合を終わらせた(シニアクラスは有効以上のポイントが入った時点で試合終了)。

重量級決勝。室端東が寺門勝利から腕十字で一本を奪い、優勝。

 

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