選手列伝
第5回選手列伝 深澤元貴
2017/03/10
10月12日に行われた、世界選手権・日本代表・最終決定戦。
‐250クラスで、過去、全日本大会で優勝も準優勝もしたことのない選手が、査定試合を勝ち抜き、日本代表に選ばれた。土壇場で〝サプライズ選出″を得た、その男の名は深澤元貴。
いったいどんな人物なのか?
大学職員としての仕事の合間に、学生の集まるラウンジでひとやすみする深澤選手
――空道をはじめられたのはいつ、どのような経緯で?
深澤2007年、大学に入学してすぐの6月に始めました。1年浪人していて、その間、人とまったく喋っていなくてノイローゼみたいになっていて「大学に入ったら楽しいサークルに入ろう」って思っていたんですけど、“新歓”で声を掛けてもらえず、ボディビル部みたいのに入ることになったんです。それが、暗い人たちの集まりで・・・・・・。そこで出来た友達が「格闘技を始めたい」って言い出したんで、一緒にやろうかっていうことになって、通っていた学習院大学の近くにあった大道塾総本部に二人で入門しました。
――それまで武道・格闘技の経験はなかったのですか?
深澤格闘技ブームの頃だったので、K-1とかPRIDEとかはテレビで観てましたけど、格闘技はともかく、スポーツ自体、自分ではまったくやっていなかったですね。
――中学・高校時代に部活などは?
深澤やってなかったですね。スポーツは凄く苦手で、50m走も10秒掛かるくらいです。
――では、友達に誘われなければ、大道塾・空道という存在自体知ることもなかった?
深澤そうですね。二人でインターネットで検索して、大学のそばにある道場を探していて、たまたまヒットしたのが総本部だったので。
――そういう経歴、動機で総本部に入って、よく、稽古が続けられましたね(苦笑)。総本部は、やはり“総本部”であるだけに、稽古に厳しさがあるじゃないですか?
深澤そうですね・・・・・・。行った初日に、いきなりノサれちゃって(苦笑)。
――えっ! 武道・格闘技経験のない入門者が、稽古初日にスパーに参加させられて、しかもKO!?
※2007年当時の話であり、現在はこのようなことは行われておりません。
深澤前蹴りでした(笑)。理由はあったんです。道着を買わなきゃってことになって、そのとき白道着の在庫が切れていたらしく、受付の方が「青道着でもいいですか?」っておっしゃったんです。で、特に断る理由もないんで「はい」って言って買って、その青道着を着て白帯を締めて稽古に出たら、他の格闘技をやっていて空道の試合に出る選手が出稽古にきたんだと思われたらしくて。
――なるほど。通常、青道着を着るのは、全日本大会や全日本予選に出る選手で、青道着で白帯を締めているとなると“大道塾の段・級位はもっていないけど他の格闘競技のキャリアをもっている”人の場合が多いから、そのように勘違いされたのですね。
深澤一緒に行った友人はもともと柔道をやっていて、稽古についていけていたんで、同じように思われたんだと思います。自分も、その場の雰囲気に流されて、組手に参加してしまって。
――とはいえ、他の格闘技をやっている人だからといって、コンタクトを強くするのも、どうかと思いますが(苦笑)。よくそれで続けましたね。
深澤若手が少ない時期だったこともあってか、先輩方から「オマエは辞めないよな!」とお声掛け頂いて「こんな自分でも期待されているのか?」と思うと、それまで他人から期待されたことがなかったから、喜びもあって。
――にしても、稲垣拓一、山崎進、清水和磨といった名だたる指導者のもとでのスパーに参加して、大丈夫だったんですか?
深澤大丈夫じゃなかったです(笑)。毎日、足を引きずりながら帰っていました。当時はお金もなかったから総本部(池袋)から、大学に通う定期券の区間内であった目白駅まで歩いて帰っていたんですけど、一緒に入った友達に「オマエは柔道の経験もあるし、センスもあるからいいけど」とか「オレはもうダメだ!」とか言いながら。
――重ね重ね申し上げますが、よくそれで続けましたね。
深澤入門した年の無差別全日本大会で、日頃、面倒をみていただいていた堀越亮祐先輩がはじめてベスト8に入られたんですけど、運営の手伝いをしながらその闘いをみていて感動して、はじめて「頑張れば、自分もあそこに立てるのかなぁ」と思って。その頃には「ここで辞めてしまったら、もうオレには居場所がないなぁ」という思いもありまして。
――で、昨年、2013年の無差別全日本で遂にそのベスト8入り(第7位)を果たしたわけですが、それ以外には、今日に至るまで全日本クラスの大会での入賞歴はない?
深澤まったくないですね。体力別はよくて2回戦負けくらいで、今年(2014年)はじめてベスト4に入りました。無差別は昨年が初出場でした。
初出場の2013無差別でベスト8に入賞
――今回の世界選手権の日本代表の選考対象になるのに、ギリギリのタイミングですね。
深澤ずっと強化練習に参加していて、最初は「ここにいていいのかな?」という気持ちだったんですけど、だんだん「代表になるんだ!」という気持ちになってきて、なんとか食らいついていけたんです。
――そして、先日の査定試合を勝ち抜いて日本代表に選ばれた、と。
深澤その入れ替え戦の相手の杉浦宗憲先輩には、強化練習でも、打撃ではチンチンにされていたんです。で、その入れ替え戦のときにも、先に効果ポイントを取られて、さらに勝機のある寝技も2回使い切ってしまって、残り1分くらいになって・・・。「今までの7年間がパァになるのか」って思った瞬間、本来、打ち合いが得意でないにもかかわらず、ガッとぶつかっていけて、効果2つを取って勝ったんです。今は、ガチンコで打ち合う組手って、練習ではどこの支部でもあまりやらなくなったじゃないですか? でも、総本部では、そういうのをずっとやっているから、あのとき、そこで得た底力みたいなものが出たのかな、と。
――なるほど。土壇場での泥臭い闘いのなかでの強さっていうのは、結局、泥臭い稽古のなかでしか身につかないのかもしれませんね。
深澤そうかもしれません。普段は打ち合わないし、根性がある方ではないと思うんですけど、刀折れて矢尽きたら気持ちだ、と。それが自分なりの〝総本部魂″ですね。
――ということは、国際試合で、打ち合いの世界に引きずり込んでくる海外勢に対抗するには、深澤選手のようなタイプがぴったりなのかもしれないですね。
深澤とにかく一人でも多くの外国人選手を倒して、日の丸を掲げることに貢献したいと思っています。