“なんで彼が?”と思わせるような技量の選手が、体格差を活かして勝ち上がってしまっているのが、無差別大会の準々決勝あたりの風景としては定番なのだが。
加藤久輝。
加藤和徳。
キーナン・マイク。
伊藤新太。
勝直光。
深澤元貴。
渡部秀一。
山田壮。
中村知大。
吉濱実哲。
内田淳一。
田中俊輔。
谷井翔太。
近田充。
目黒雄太。
草薙一司。
今大会でベスト16に残ったのは、いずれも、美しい闘いをみせる男たちだった。
ある者は圧倒的なパンチ力、ある者は変幻自在の絞め技、ある者はトリッキーな跳び道具、ある者は頭突きからの背負い投げ、ある者は首相撲からのヒジ・・・。それぞれが“魅せる個性”を発揮しつつ、一方で打撃も投げも寝技もソツなくこなす。
それでは、ベスト16の闘いから決勝までを振り返ろう。
相手の持ち味を消す巧さをもつ近田だが、谷井のスピードを殺すには至らず。右ハイで効果を奪った谷井が優勢勝ち。
巴投げなど円熟の技をもつ47歳・草薙と、破天荒でスピード溢れる動きをする21歳・目黒の軽量級対決。右ハイで効果を奪った目黒が優勢勝ち。
165センチで84.9キロと柔道出身者ならではの体型をした吉濱に対し、中村は15キロ以上軽量だが、まったく組み負けない。吉濱も、相手の蹴り技をキャッチしてからのテイクダウンなど、空道ならではの打撃と組技の連携に優れた選手だが、中村の組んでからの頭突きやヒジにペースを乱され、持ち味を発揮できず。延長で、中村がパンチで有効と効果をひとつずつ奪う。
どっしり重心を下ろした構えでパンチから蹴りを返し、襟や袖を掴んで投げて極め突きを入れる“空道のスタンダード・スタイル”の内田と、ㇺエタイ的なスタイルの田中の闘いは、実力が拮抗しているがゆえに、両者ポイントのない、見方によってどちらにも旗が挙げられるような展開。本戦は、副審の旗が内田に1本、田中に2本。延長は5人の審判のうち、内田支持が3人、田中支持が2人。
2回戦、パンチで魚津礼一(11&13年-250級全日本準優勝)のバランスを崩し、アップセットを演じた深澤が、さらに大物食い。-250級全日本で08年秋期準優勝、10年優勝の勝からもパンチで効果を奪う。深澤は1回戦では絞め技で一本勝ちを収めており、3試合連続の完勝。
-250級全日本で06年、08年優勝の佐々木嗣治からハイキックで効果を奪い、3回戦に駒を進めた山田。杉浦宗憲との東西テクニシャン対決をヒザ十字による一本勝ちで制した渡部。両者の対戦は、渡部が腕十字に捕え、一本勝ち。
昨年の無差別で彗星のごとくベスト4に駆け上がった加藤和徳。今大会でも、2回戦では突進する体重100キロの洞口周一朗を膝蹴り一発で悶絶させるなど、好調を感じさせた。W加藤対決、技の威力で上回る久輝がパンチで効果ポイントを上げ、勝利を収めたが、内容は接戦。和徳は、特別賞を受賞した。
21歳の伊藤は、アップライトスタイルでミドル・ハイをキレイに打ち込む一方で、投げに対してカウンターの襟絞めを仕掛けるなど、巧みな攻めで勝ち上がってきた。しかし、ベテラン、キーナンの前には、まだ一歩及ばず。右ストレートを被弾し、一本負けを喫す。
タックルを仕掛けた谷井に対し、深澤は向かい合っての裸絞め(いわゆるギロチンチョーク)を狙うが、谷井はサイドに回り込み、襟絞めのカウンター。一本を奪った。
渡部の重いハイキック、ヒザのプレッシャーや独特の襟絞めにたじろぐことなく、中村は懐に飛び込み、パンチをヒットさせ、背負い投げを決める。22の体力指数差を制した。
目黒はハイキック、ミドルキック、掌底と、スピード溢れる打撃で攻め立てる。内田は捕まえてテイクダウンしようと試みるが、目黒は蹴りをキャッチされても、スネを腹の前に入れてバランスをキープするのが巧みで、倒れない。目黒が優勢勝ち。
キーナン・マイクがパンチで効果を奪い、場内が沸くが、すぐさま加藤は怒涛の反撃。掴んでのパンチの振り下ろし、裸絞め、大外刈りからの極め突きなどで逆転し、完勝。しかしながら、キーナンの成長ぶりもうかがえ、両者の実力差は縮まっているようにみえた。大会の度に両者は対戦し、常に加藤が勝利を収めているが、キーナンが加藤越えをする日も近いか?
早大OBの中村と、現役学生の谷井による先輩・後輩対決。中村がいわゆるガードポジションからの腕十字で谷井を一蹴。先輩の貫録をみせつけた。総本部で両者に寝技を指導する中井祐樹氏(日本修斗協会会長、来賓)も、教え子たちの熱戦に目を細めていた。
目黒は臆することなく、金的蹴り、金的パンチを放っていく。体力指数差により、金的攻撃が認められる試合となっても、実際に金的を狙う選手は少ない。自分が狙えば、当然、相手も狙ってくる・・・・・・そう思えば、自然と躊躇してしまうものなのではないか。しかし、目黒は、まったく臆することなく、のびのびと金的を狙っていった。試合後「恐怖心はなかったのか?」と訊くと「正直、どうせ、勝てないって思ってたから、開き直って闘えた」という。実際、加藤は蹴り返してきたが、それによって動きが固くなることもなく、金的蹴りをフェイントにしてパンチを当ててさえみせた。さらに前蹴りで吹っ飛ばされれば、そのまま側転、胴回し回転蹴りを放っては前転して立ち上がってのパンチ・・・と自由奔放。金的パンチも側転も、すべて普段から稽古しているわけではなく、その場で自然に出た動きだという。最終的には加藤が左のパンチで効果を得て勝利を収めたが、目黒の強心臓に驚嘆した一戦だ。
目黒が「どうせ勝てない」という開き直りでいい動きをみせたのに対し、本気で勝つ気で加藤に挑んだのが中村。加藤清尚以来22年振りの軽量級選手による全日本無差別制覇は成るか?
中村は果敢に打ち合いを挑み、ボディと顔面の打ち分けから蹴りの返し、さらに背負い投げ。加藤が大会前に左拳に負傷を負い、満足にパンチの打てない状態だったとはいえ、正攻法で4階級上の選手をここまで攻め立てるとは驚異的ですらある。最終的には延長戦で左ローでダウンを喫したが、試合後「もっとフットワークを使えばよかった」と悔しさを呟く声に、限りない向上心を感じた。
決勝に進出したのは前原映子(大道塾北本)と、庄子亜久理(大道塾仙台西)。前原は神山喜未(大道塾日進)を、庄子は塩田さやか(CHECKMAT JAPAN)を、それぞれ打撃の巧みさで制して、今春の全日本決勝に続く再戦を迎えた。前回の対戦の際と同様、テクニカルな攻防に。空道のみならず、打撃の含まれる格闘技・武道においては、まだまだ女子部門の人口が少なく、男子部門と比べて、その試合展開が明らかに見劣りする場合が多い。しかし、二人の闘いぶりは、格闘技・武道界に、あるいは世間一般にみせて「女子もこのレベルに達しているとあれば、空道なるものの普及度は高い」と感じさせるに十分なもの。ハイキック、組んでのヒザ、ボディワークやボディ打ちからのダブルブローを織り交ぜたパンチ技術、中足で刺す前蹴り・・・・・「力任せの男子選手は、爪の垢を煎じて飲め」と言いたくなるほどの技術戦。結果としては、前原が返り討ちを果たしたが、内容は僅差。春よりも実力差は縮まっているように感じた。
更新日2013.11.25 記事追加11.29